第3部
大切なのは健康づくり ~健診を意識して~

「沈黙の臓器」ともいわれる肝臓の病気は知らない間に進行している恐れがあります。誰しも病気にはなりたくないですが、どのようなことに注意して生活すればいいのでしょうか。パネリストの医師に予防などについて伺います。

〈企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局〉

減量、運動、検査数値確認を心掛けて

長谷川
第1部、2部では肝臓の働きや病気、本県が行う助成制度などについて伺ってきました。第3部では肝臓に良い食生活、運動、健康診断や人間ドックの結果の見方などを学びます。
濱村
脂肪肝の治療で一番大事なのは減量です。非アルコール性脂肪肝炎患者で体重を3~5%減らせば、肝の脂肪化が改善し、7~10%減らせば、肝の線維化が改善すると言われています。食事の内容は「地中海食」のような食物繊維や不飽和脂肪酸の豊富なものが推奨されることがあります。また、運動はサイクリング程度の有酸素運動を週3~5回、計150~200分を目安にします。
近年では薬を使った脂肪肝の治療もあります。たとえば、糖尿病を持つ脂肪肝の患者さんには、SGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬が使われることがあります。自分の肝臓の状態を知るために、健診や人間ドックは非常に大切です。通院中の人も肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などとともにALT上昇が見られる場合は腹部超音波検査を行います。脂肪肝と診断されたら、肝の線維化の状態を種々の方法で調べ、線維化があると判断された場合には、専門医を受診します。
脂肪肝の治療
脂肪肝のスクリーニング
長谷川
ALT30という数字が出ましたが、健診の際にチェックしていきたいものですね。ところで本県では、肝臓病の対策や患者支援は行っているのでしょうか。
後藤
静岡県では「肝硬変や肝がんになる県民を減らす」ことを目標に掲げ、「肝炎対策推進計画」を6年ごとに更新しています。次期はちょうど今年4月から始まりますが、脂肪肝なども含んだ肝疾患全体の計画に拡大します。「肝炎の正しい知識を広め、肝炎ウイルス感染を予防」「肝炎ウイルス検査と、検査陽性者への受診の勧奨」「身近な地域で医療提供体制の確保」「患者と家族への支援の充実」「脂肪肝やアルコール性肝疾患の予防啓発とALT高値の人への受診勧奨」といった5本の柱で実施してまいります。
古賀
肥満度を表すBMIの指数が25以上の方は注意してください。LDLコレステロールや中性脂肪が高い方も脂肪肝になりやすいので油断はできません。肝臓の検査としてはAST、ALT、γ―GTPの三つが重要です。当センターでも前述の「ALT30」を活用し、早期に肝臓の疾患を見つけていくことを目指しています。脂肪肝は肝硬変、肝がんに進行する場合があります。半年に1度ぐらいの間隔で、超音波や血液検査で定期的にチェックしていきましょう。BMIが25~26になると、さまざまな病気を併発しやすくなります。人間ドックや健診は肝臓病以外の生活習慣病も見つけることができます。早期発見できれば、予防や早期治療につなげられますし、医療費の削減にもなります。ご自分で自覚できない症状や忍び寄る病気を見逃さないためにも、血液検査は非常に有効です。また、定期的な健康チェックが行えるかかりつけ医を持つことも、ぜひご一考ください。
長谷川
治療、助成、食事、運動、健診の大切さを伺いましたが、それ以外に私たちが予防や治療のためにできることはありますか。
後藤
肝臓をはじめとするいくつかの臓器では、移植しか治療がない病気があります。先日も国内で子どもの患者さんに家族から肝臓と肺を同時移植して成功したニュースがあったばかりです。実は本県は脳死となった方からの臓器提供者数が全国平均より多いのです。とはいえ、海外諸国と比較すると、日本はまだまだ多くありません。人口100万人あたりの臓器提供者が日本は0·61人ですが、アメリカは38·03人、韓国も9·22人と大きな差があります。1人の脳死になった方が臓器提供をしていただくと、10人近い方の命が救われる場合もあります。大切な命をつないでいくためにも、運転免許証やマイナンバーカードに臓器提供のご意思の有無をぜひ記載してください。進行した肝がんであっても、肝臓移植という治療ができる場合があります。
全国と静岡県 脳死での臓器提供者数 2018~22年
濱村
日頃患者さんたちと接していて切実に感じるのは、「お酒、たばこ、太りすぎに注意していれば良かったのに(節制)」「健診を受けていればもっと早く病気が見つかったのに(健診)」「病気や薬のことを知っていれば、悪くしないで済んだのに(知識)」という思いです。お医者さんに「お任せします」というのではなく、日常生活の中で、「自分自身で健康を管理しよう、病気を治そう」という意識を持つことが大切です。「節制」「健診」「知識」は、肝臓だけでなく、すべての病気の予防と治療に役立ちます。
長谷川
お勤めしている方は職場での健診がありますが、高齢者や自営業、主婦は自ら意識して人間ドックや健診を受ける必要がありますね。
肝臓の病気を予防するには
健診・人間ドックの意義
後藤
繰り返しになりますが、肝臓の病気には医療費の助成制度がありますので、ご活用ください。さらに知識も大事です。自身や家族がB型、C型肝炎検査をしたかどうかの確認もしましょう。まだ行っていなければ、自治体の健診や保健所・医療機関で検査を一度はしていただきたい。B型、C型肝炎は治療で肝硬変や肝がんへの進展を防ぐことが可能です。
古賀
本日は肝臓について専門家の先生方の話を聞いて、私も非常に勉強になりました。この知識を有効活用し、さらに人間ドックや健診も忘れずに行いながら、今後皆さんが長生きできる一つの手助けになればと願っております。
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