第2部
肝硬変、肝がんになったら

第1部では肝臓の働きや肝臓病の初期段階について詳しく聞きました。肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝が進行するとどうなるのでしょうか。パネリストの医師に引き続き伺っていきます。

〈企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局〉

症状出にくい肝がん、制度利用し検査を

長谷川
第2部では肝硬変や肝がんについて伺います。まず肝硬変とはどんな病気でしょうか。
濱村
慢性肝炎を放置すると肝臓が硬くなり、肝硬変に移行します。ただ、肝硬変になっても、しばらく自覚症状は出ません。C型肝炎の場合、症状が出ない「代償期」を40年以上経て、非代償期の肝硬変に至ります。正常な肝臓は柔らかいですが、肝硬変になるとでこぼこ、カチカチになって、肝臓の中を血液が通りにくくなってきます。そこで、血液が迂回路(うかいろ)を作って通るようになるのですが、そこに食道や胃があるため、静脈瘤(りゅう)が発生、破裂します。この時点で、突然吐血して初めて肝硬変が判明する人がとても多いです。肝臓が血液を通しにくいので、門脈の圧力が高くなって、血液の血しょう成分が血管から漏れ出し、腹水が起こります。この二つが初期の症状です。さらに進行すると、黄疸(おうだん)や意識障害(肝性脳症)などの症状が出てきます。例えば、C型肝炎を放置すると、肝の線維化は10年ごとに1段階ずつ進みます。しかし、治療でウイルスを取り除くと、3年ごとに1段階ずつ戻っていきます。このことから、肝硬変になっても原因を取り除けば治る方向に向かうということが分かります。
肝がんになりやすい人は肝臓が硬い人、男性、高齢者です。高齢者に多いのは罹患(りかん)期間が長いからとも言えます。飲酒をすると、さらにがんの危険が増します。C型肝炎は治療をすると、がんの危険が5分の1に減ります。肝炎の原因を除く重要性が改めて理解できます。
古賀
「肝硬変診療ガイドライン」によると現在、B型、C型肝炎は非常に減ってきています。その一方、アルコール性肝炎や脂肪肝は増加中です。この傾向は当センターの受診者データとも一致します。それだけに、人間ドックや健診の必要性をより強く感じます。
「お酒を飲まないのに、なぜ肝臓が悪くなるの?」。このような質問が受診者から寄せられます。肝硬変にはアルコール性と非アルコール性があって、お酒を飲まないのが非アルコール性です。さらに非アルコール性は脂肪肝と脂肪肝炎(NASH)に分かれます。このNASHが結構厄介で、年月とともに肝硬変、肝がんに進行していくのです。そこで診断された方は、経過観察が大事になってきます。
肝硬変と臨床症状
人間ドック受診者の生活習慣病関連項目の判定結果
濱村
肝がんは進行するまで症状はありません。そのため、病状が悪くても、自分では気がつかない点が怖いところです。しかし、見方をかえて、きちんと通院して治療をすれば普通に生活ができると考えると、むしろそれは良い点と言えます。肝がんになっても、およそ20%の患者さんが10年以上生存できます。とくに、C型肝炎、B型肝炎の治療が進歩しており、がんが再発しない患者さんも増えています。肝がんは骨、リンパ節に転移することが多いのですが、胃がん大腸がんに比べると珍しく、約5%です。それ以外は肝内に再発します。肝内で再発が進めば、腹水、黄疸、意識障害などの肝不全症状が現れます。消化管出血、胆道出血、腹腔内出血を起こすこともあります。
治療は外科手術、ラジオ波やマイクロ波による焼灼、カテーテルによる動脈塞栓(そくせん)術、抗がん剤を使います。病巣が小さく数が少なければ(3㌢以内、3個以内)、おなかを切らなくても治療ができます。これを、大きさで超える場合は手術、数で超えればカテーテル治療を行います。さらにがんが進行し、病変が大きいとき、血管への侵入、骨転移が起こると、全身化学療法が必要になります。切除が容易で肝機能が悪い場合には、肝移植を検討することもあります。
肝細胞癌の症状
長谷川
もし肝硬変、肝がんになった場合、治療費が気になります。これらの疾患には公的な医療費の助成制度が適用されるそうですね。
後藤
静岡県では国の助成制度を県内の患者さんに提供しています。肝硬変や肝がんの原因の6、7割は、B型肝炎やC型肝炎のウイルス感染です。そこで、このウイルスに感染しているか否かの肝炎検査を一生に1回は受けましょうと県では啓蒙しています。
40歳の節目の年などに市や町で行う住民健診や、保健所・医療機関でも無料で肝炎ウイルス検査ができます。そこで陽性と判定されたら、ぜひ精密検査を受けてください。陽性と分かった初回の精密検査の費用のほぼ全額が助成される制度があります。さらに年2回の定期検査も助成対象となります。また、肝炎や肝硬変、肝がんの治療後、再発を懸念した定期検査に関しても、年2回までは所得に応じて自己負担額が発生しますが、かなり検査費用を抑えられる制度もあります。
B型、C型ウイルス性肝炎の治療には高額な薬が使われています。この治療費も患者さんの所得に応じて、自己負担額が最大でも月1万~2万円で治療ができる制度があります。また、肝がんや重い肝硬変になって、その原因がウイルス性の肝炎だった場合にも助成制度が適用されます。これも自己負担額は月1万円までが上限です。検査や治療について本県は助成制度を通して支援を続けます。
静岡県 肝臓病の検査・治療に対する助成制度 2023,24年度
長谷川
患者さんの検査、治療を厚くカバーしてくれる、このような制度を知っておくのは大事なことですね。
後藤
県のデータによれば、肝炎の初回精密検査の件数は少し減っていますが、治療前、治療後の定期的な検査については、C型肝炎の治療者が減ったためか、減少しています。2019年からは重度肝硬変、肝がんの方の治療をサポートする制度も始まりました。これらの患者数は増加傾向になっています。2022年には、本県におけるB型肝炎、C型肝炎の治療は、年間でB型が2000人、C型が300人が助成を受けている状況です。
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第3部 大切なのは健康づくり ~健診を意識して~
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