第1部
肝臓の働き、脂肪肝と肝炎について

肝臓はさまざまな働きをする重要な臓器の一つです。医師に専門的な話を伺いながら、正しい知識を身に付け、予防を目指しましょう。第1部では肝臓の働きや肝臓病の初期段階について詳しく聞きます。

〈企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局〉

「肥満大敵」酒もたばこも控えて

長谷川
「沈黙の臓器」の別名を持つ肝臓ですが、無自覚のまま命に関わる病気に進行することがあるといわれます。肝臓は多くの役割を担う大事な臓器。今回改めて学びましょう。
濱村
肝臓は体の中心に位置しています。栄養の代謝と貯蔵、有害物質の解毒のほか、食べ物を消化する胆汁を作る働きもあります。ところで、あらゆる臓器は一般に予備の力があり、有事の時に即応できるようになっています。例えば、日頃運転する自動車は通常、時速40㌔前後でしか走らないのに、スピードメーターは、たとえば、時速160㌔まで出せることになっています。このくらいの余力がないと実は快適に走れないのです。人の臓器の一つ、肺の例では、普段500cc以下で呼吸をしているのに、肺活量は3~4㍑あるのが普通です。肝臓も同じで、普段は一部しか使用していません。しかし、慢性肝炎を放置したり、飲酒をしたりすると、予備の力が知らないうちに減っていくのです。普段は症状は起こりませんが、肝臓が大活躍しなければならない状態、つまり、けが、手術、感染症などにかかったときに、余力のない肝臓では黄疸(おうだん)や腹水が生じてしまいます。これが、「沈黙の臓器」たるゆえんです。
臓器の病気は、一般に炎症と腫瘍に分類できます。炎症には急性と慢性があります。急性肝炎は生肉や衛生状態の悪い水を摂取した後に生ずるA型とE型、血液や体液に汚染された器具や性交渉によって生じるB型、C型があります。B型は母子感染で慢性化し、C型は約7割が慢性肝炎に移行します。そのほか、脂肪肝や薬剤による慢性肝炎もあります。慢性肝炎には自覚症状がありません。20年、30年の長い年月をかけて徐々に肝硬変に移行し、末期になるまで症状が現れません。この間、だんだん肝細胞がんも発症しやすくなります。
肝臓の病気
長谷川
本県で肝臓の病気を持つ方はどのくらいいるのでしょうか。
後藤
B型、C型ウイルス性肝炎の治療には県から医療費が助成されます。この助成件数の統計によれば、B型肝炎は治療が継続するため、件数は増加しています。2022年には約2000人が助成を受け治療を続けています。C型肝炎は減少傾向で約300人です。また、肝がんの患者数は男性が女性の2倍多く、毎年700~800人が発症します。肝機能を示す一つにALT値があります。肝臓の細胞が壊れると血液中の濃度が高まるため、血液検査で確認できます。正常値は30IU/L以下です。実はコロナ禍以降、運動不足や自宅での飲酒量増加のためか、脂肪肝やアルコール性の肝障害の方が増加している可能性があります。
全国と静岡県 健診で肝酵素ALT 30超の人の割合 2013~20年
長谷川
康診断や人間ドックを受ければ、自身のALT値が把握できますね。では、SBS静岡健康増進センターの受診状況はいかがでしょうか?
古賀
当センターの健診受診者は男女とも年々増え、健康への意識の高まりを感じます。2022年度はがん検診、人間ドック、健康診断で、県内全域から約3万1000人が受診しました。その中でB型、C型肝炎の検査結果を見ると、B型は30代以下が皆無で、中高年に多く見られます。C型は特効薬が2015年に登場したこともあり、激減しています。B型はウイルス感染が原因ですが、かつて注射針を交換しないまま集団予防接種が行われ、そこでウイルスに感染した方が全国で約40万人います。さらにご自分の感染を知らないまま他人に移している場合もあるので、健診はぜひ受けるようお願いします。
長谷川
肝臓病の初期疾患である脂肪肝について教えてください。
濱村
非常に多い病気です。原因は体質(遺伝)と生活習慣です。体の中で、脂肪組織は、燃料タンクのようなもので、肝臓は補助のタンクと言えます。タンクの大きさは、人それぞれですが、食べ過ぎるとどちらもいっぱいになり、溢れた燃料が燃え始め、慢性炎症を抱えることになります。燃え始める目安は、BMIという肥満を示す指標で25前後です。慢性炎症は、長期間放っておくと、がんを含めた多くの病気の元になります。ですから、「油断大敵」ならぬ「肥満大敵」なのです。
肝がんについて
肥満大敵
古賀
当センターの人間ドック受診者の生活習慣病関連の結果を調べました。男性の場合、50歳をピークに20~30%の方がBMIが25以上でした。女性は男性より少ない傾向です。ほかALT、ASTが「要経過観察」となるのは、50~60歳がピークです。男性は女性の倍以上多く、要因には飲酒や脂肪肝が挙げられます。
脂肪肝の判定には腹部超音波(エコー)検査が行われます。通常は暗い色ですが、脂肪肝になると画像に明るく白く映り「ブライトリバー(明るい肝臓)」と呼ばれます。エコー検査を行うと4人に1人が脂肪肝と診断され、その多さがご理解できることでしょう。患者数は全国で1000万人以上いるとされ、肥満やメタボリックシンドロームの患者さんの増加に伴い、脂肪肝の患者さんも増えているのです。
長谷川
脂肪肝は非常に多い病気なのですね。さて、本日の参加者から「脂肪肝とアルコールの関係」について、多くの質問が挙がっています。
濱村
飲酒との関連は皆さん気になりますよね。厚生労働省では1日の飲酒量の指標を出しています。純エタノールに換算し、男性は1日40㌘、女性は20㌘で、それを超えると健康上のリスクが高まります。例えばがん発症率。肝臓がんは1·8倍、大腸がんは2倍、食道がんは4·6倍です。飲むと顔が赤くなる、いわゆるお酒に弱い人や女性は同じ量を飲んでも肝硬変や肝がんになりやすくなります。しかし、病院に来られる患者さんの多くは、すでに肝硬変や肝がんを患っています。患者さんの視点で見れば、「飲まなければ良かった」「食べ過ぎなければ良かった」と後悔している方ばかりです。もちろん、喫煙もそうです。それでも飲みたい場合は、検査数値でAST、ALT、γーGTPをみます。肝臓の弱い人は少量の飲酒でも肝障害が現れますが、肝臓の強い人は現れません。これらを目安に限度を決めて、たしなんでいただければ良いと思います。
長谷川
つい食べ過ぎ、飲み過ぎる方は多いと思いますが、飲まないに越したことはない、何事もたしなむ程度に楽しむことの大切さを改めて痛感しました。
結論
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