第3回防ごう脳卒中

日本人の三大生活習慣病の一つ「脳卒中」について、タイプ別にどのような治療となるのかを聞き、迅速な治療開始の大切さを学んできました。しかし、治療は目覚ましく進歩したものの脳卒中の制圧には至っていません。脳卒中を減らすカギは予防意識の広がりにありそうです。最終回のテーマは「防ごう脳卒中」です。

生活改善でリスク減らせる

長谷川
脳卒中の症状や治療法を伺ってきましたが、まずは予防ありきですね。
古賀
脳卒中の最大の危険因子は高血圧です。血圧が高いと動脈硬化が進み、血管が詰まったり破れやすくなったりします。降圧剤の服用、減塩の食生活を心掛ける工夫が必要です。
長谷川
食事は毎日取るものだけに、減塩は不可欠ですね。毎日の塩分摂取量はどのぐらいが理想なのですか。
植松
国が推奨する1日の塩分摂取量は男性が8グラム、女性が7グラム未満です。しかし、平成28年の国の調査では、本県の摂取量は男性10.3グラム、女性9.0グラムと、目標値よりオーバーしていました。さらに高血圧の薬を服用中の方の目標量はもっと厳しく1日6グラム未満ですので、薬を過信せず、より一層減塩に気を付けていただきたいです。
以前、本県で食生活の調査をしたところ、地域差が見られました。中でも伊豆地域は塩分の多い汁物、漬物、干物を取る方が多いという結果でした。この地域は特定健診結果では高血圧の割合が高く、死因別の死亡状況からは脳卒中で亡くなる方も多い傾向が見られました。塩分摂取だけが原因とは言えませんが、傾向はあると思います。
食の地域差
植松
国は3年ごとに各都道府県別の健康寿命の公表をしています。初回(平成22年)は本県が健康寿命第1位でした。ところが回を追うごとに順位が下がっているのです。健康寿命の要因はいくつかありますが、本県は脳卒中で亡くなる方が多いため、脳卒中を減らすことで健康寿命も延ばせるのではと思います。

だしや香辛料を活用 野菜摂取も意識的に

長谷川
無理なくできる減塩のコツがあれば教えてください。
植松
今は外食する方も多いと思いますので、外食に含まれる塩分量を意識しましょう。例えばおすしは1人前で塩分が2.3グラム。これにしょうゆをつければ一気に塩分量が増えてしまいます。ラーメンは汁まで飲み干すと、1日の摂取量をオーバーしてしまいます。
家庭でも減塩は大切です。みそ汁は毎食食べると塩分過多です。1日1食だけにするとか、野菜多めの具だくさんにする等の工夫も必要です。はんぺん等の練り製品も塩分が多いので気を付けてください。だしのうま味や香辛料を使うことでも塩分は減らせます。
食塩摂取の1日の目標量
植松
野菜はもっと多く取りましょう。野菜のカリウムには、塩分を排出させる働きがありますが、本県の野菜の摂取量はとても少ないのです。1日の推奨摂取量が350グラムなのに、本県の平均摂取量は男女とも全国1位の長野県と比べると約90グラムも少なくなっています。せっかくの農業王国に住んでいながらもったいない話です。
長谷川
ほか、脳卒中予防の留意点はありますか。
古賀
たばこです。喫煙者は脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが3~5倍高まります。電子たばこも望ましくありません。たばこは肺がんや肺疾患以外にも、脳卒中や心筋梗塞にも悪影響を及ぼしているのです。
長谷川
今井先生は外来で、禁煙に力を入れていますね。
今井
患者さんには常にたばこの弊害を説いています。
佐藤
喫煙は良くないにもかかわらず、病院で私たちを前にして「吸ってもいいですか」と言う方もいるほどで、まだ怖さを自覚されていない方が多いようです。そこで予防のための手術を受ける方には「合併症も高まるため、禁煙されない限りは手術をしません」と申し上げています。
今井
そして今、若い方のメタボリックシンドロームが問題です。20~30代で脳卒中になる方がいるのですが、ほぼ全員がメタボなのです。さらに、検診も受けず、ご自分の血圧を知らない方も多いのです。ご自分の体調の基本データは把握していただきたいものです。
佐藤
アルコールは少量なら良いという話もありますが、実は、喫煙と高血圧と飲酒、この3要素のある方ほど、動脈瘤が破れるリスクは高まります。中でもリスクが高いのが飲酒です。お酒もなるべく飲まない方が良いのです。
植松
腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上で、高血圧と糖尿病と高脂血症のうち、二つ以上に該当している方をメタボと定義しています。メタボの喫煙者は、非メタボの非喫煙者に比べ、循環器疾患のリスクが男性は3.6倍、女性は4.8倍も高まります。
喫煙とメタボの組み合わせに夜循環器疾患のリスク
長谷川
喫煙、飲酒、肥満、食生活など、日常生活で改善するべきことはしないといけませんね。
そして健康診断や人間ドックなどの大切さも実感しました。

自己判断の服薬中断 リスク高めることに

古賀
血圧、コレステロール、糖尿病、肥満など、自分の体を把握することは重要です。脳卒中が心配なら、MRIで行う脳ドックもあります。皆さんが健康長寿を全うされるためにも、人間ドックや健康診断はぜひ受診しましょう。
今井
脳ドックは年齢や受診の頻度に制限はありません。ご家族に動脈瘤の方がいるとか、高血圧や糖尿病などがあれば、若い時から受けても良いでしょう。MRIは放射線被ばくがないので心配ありません。
佐藤
首から頭につながる頸動脈も病気が起きやすい場所ですが、これも超音波検査で簡単に診断できます。頸動脈が悪い方は、他の血管もリスクがあります。脳ドックには頸動脈の超音波の検査が入っていることが多いので、お勧めします。   
植松
特定健診の受診率は、国は70%を目標にしていますが、本県ではまだ54.1%と目標値には届かない状況です。ご自身の健康状態を知るためにも日頃お医者さんにかかる機会のない方こそ、ぜひ健診を受けてください。   
長谷川
最後に、県民の皆さんへメッセージをお願いします。
今井
脳卒中の対策として忘れられがちなのが、薬を勝手にやめてしまうことの危険性です。血圧や血糖の薬などを自己判断でやめると、脳梗塞や脳出血になる心配が高まります。
また、静岡市の場合、急性期病院、回復期リハビリテーション病院、開業医が、脳卒中予防の連携を行っています。例えば血圧が高い時、総合病院にずっとかかる必要はありません。普段はかかりつけの診療所で受診し、何かあれば急性期病院で対応するといった、地域での取り組みも行っていますので安心して受診を続けてください。
佐藤
脳卒中は怖い病気ですが、死亡率は減少傾向にあります。ただ、命は助かっても後遺症が残るのが問題です。家事や仕事ができず、寝たきりや介護が必要となってしまいます。
脳卒中は、生活習慣を改善していけば予防につながります。禁煙、休肝日、減塩、ダイエットなど、普段からできることを始めて、人生100年時代、元気に健康長寿を目指していきましょう。
脳卒中は予防できる病気です。

※2020年3月28~30日の静岡新聞朝刊(企画・制作 / 静岡新聞社地域ビジネス推進局)に掲載された内容をまとめました。

pagetop