第1回知ろう脳卒中

日本人の三大生活習慣病の一つ「脳卒中」。突然発症する病気で防ぎようがない、と思われがちですが、正しい知識があれば救える命があり、後遺症も少なく済みます。治療や予防の最前線にいる専門家に脳卒中をめぐる現状と治療技術の進歩、予防の大切さについてお聞きしました。

脳が司る機能や生命脅かす

長谷川
脳卒中という言葉自体は、実は平安時代の書物にも出てくるほど、日本人にはなじみのある病名ですが、詳しく理解している方は案外少ないのではないでしょうか。
今井
脳卒中とは、血管が詰まるタイプと破れるタイプに大別されます。まず詰まるタイプで、詰まりかかっているものを一過性脳虚血発作と言い、そのまま詰まると脳梗塞になります。
詰まり方も3種類あり、非常に細い血管が詰まるのがラクナ梗塞で、軽いまひで終わることが多いです。 次にアテローム血栓性脳梗塞、これは太い血管が狭くなって血の固まりが詰まり、症状は軽症から重症までさまざまです。そして心原性脳塞栓症。心房細動という不整脈があり、心臓に血液の塊ができ、脳に飛んで詰まって重症化するケースが多い梗塞です。血管が破れるタイプでは、脳出血とくも膜下出血に分かれます。
脳卒中には血管が詰まるタイプと破れるタイプがあります

日本脳卒中協会の資料を基に作製

長谷川
脳の血管が詰まるタイプには、梗塞と塞栓と呼ばれるものがありますね。
今井
梗塞には血栓症と塞栓症があります。ただラクナ梗塞に関しては、血栓症よりもっと細い血管が詰まるため、別の病気に分類されていますが、治療については血栓症とほぼ同じだとお考えください。
長谷川
脳卒中のくも膜下出血と脳出血、脳梗塞は、脳のどこに異変が起こるかで違いがある、という理解でよいのでしょうか。
佐藤
血管が破れるくも膜下出血と脳出血の話になりますが、どこの血管が破れているかで異なります。脳の血管は主幹動脈と言って、建物にツタがからまるように、太い血管が脳の表面に走っています。この血管が破れるのがくも膜下出血です。脳の表面全体に、血がワーッと広がっていく病気です。開頭手術をすると、破れた血管からあふれた血液で脳が真っ赤に見えます。さらに穿通動脈と言って、太い血管から脳の中に、くしの歯のように細い血管が走っているのですが、この血管が破れますと、脳内出血となります。血管が詰まれば梗塞、破れると脳出血になるとご理解ください。

片まひや言語の異変 脳梗塞の重要サイン

長谷川
脳卒中になると、どんな症状が出ますか。
今井
脳には場所によって働きがあり、損傷の位置で症状も異なります。よく知られているのは手足のまひです。例えば、右側の手足の動きは左の脳で命令しますので、左の脳がやられると、右側の手足にまひが出ます。舌を動かす筋肉を命令する場所がやられると、ろれつが回らなくなり、片方の脳の後方が働きを失うと、視野が半分見えにくくなります。小脳に損傷があるとバランスが取れなくなり、うまく歩けなくなります。
くも膜下出血では、今まで経験したことがないほどの激しい頭痛が起こります。脳幹の場合は重症で、意識を失うことがあります。
当院の場合、重症で搬送される方は2~3割で、最近は皆さんも勉強されているので、軽い段階で来院される方も増えています。ただ、軽くても重症化する恐れがあるので、一晩様子を見るなどせずに、すぐ病院に行ってください。
突然、次の症状が起こったら脳卒中かもしれません
長谷川
おかしいなと思ったらすぐに病院へ、ですね。重症かどうかはどのような症状で判断するのでしょうか。
今井
重症の方を迅速に見分けるポイントを紹介しましょう。まず、黒目が両方とも片側に寄っている場合は、脳の片方の広範囲な障害があります。物を見せて、その名前が言えない場合は重症の脳梗塞や、失語症と言って言語を命令する脳の左側の障害が考えられます。後頭部に大きな脳梗塞が起きますと、半分視野が見えなくなり、指を4本出しても、何本か正確に答えられなかったりすることが起きます。重症の脳梗塞の場合、血栓を溶かしたり機器で血栓を回収したりする治療法があります。
長谷川
脳卒中では、血液が脳に届かずに脳細胞が壊死してしまいますが、一旦だめになると、回復は難しいのでしょうか。
佐藤
残念ながら、脳細胞が破壊されると基本的には回復できません。ただ、脳というのは、神経細胞からできた柔軟性のある電気回路のようなものですので、壊れた所ができても、時間が経つと他の部分が補ってくれることもあり、人によっては回復するケースもあります。

脳卒中による死亡 全国より多い傾向

長谷川
一刻も早い対応や予防が不可欠なのですね。ところで、日本における脳卒中の現状は。
古賀
わが国の主な死因別死亡数ですが、筆頭はがんで30%弱です。2番目は心疾患で約15%。その後は老衰と脳卒中、肺炎がほぼ同数で、脳卒中は年間約115万人が亡くなっています。
その中で、脳梗塞による死亡者は6万2000人ほどで、介護が必要となる原因の第2位です。寝たきりなど自分では動けなくなり、ご自身のQOL(生活の質)も下がる上、医療費もかかり、ご家族にも負担がのし掛かってきます。
日本では毎年約29万人が脳卒中を発症し、半分以上が死亡や介護が必要な状態になっている現状です。早期発見と予防対策は非常に重要なのです。ただ、患者数は年々減少傾向にあります。発症は、男性が圧倒的に多い病気です。
長谷川
それでは、本県民の傾向はいかがでしょう。地域性はあるのでしょうか。
植松
平成25~29年の5年間分の死亡を年齢等調整して死因別に国と比較してみたところ、本県では男女とも、老衰と脳卒中で亡くなる方が全国平均よりも多くなっています。さらに脳卒中は、脳梗塞よりも脳出血で亡くなる方が多いことが分かりました。
静岡県の死亡状況(男性)

静岡県市町別健康指標(SMR)

静岡県の死亡状況(女性)

静岡県市町別健康指標(SMR)

長谷川
おさらいをしますと、脳卒中には、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、三つのタイプがあるということ。そして、脳の神経細胞は一旦だめになると回復しづらい。だからこそ、早く回復できるように、あるいは予防できるように努める必要があるのですね。 脳卒中は治療の歩みによって、早急に適切な治療を受ければ、ほとんど障害を残さずに回復できるケースもあると知り、未然に防ぐこと、治療には迅速な対応が求められることが理解できました。
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