第2回治そう脳卒中

日本人の三大生活習慣病の一つ「脳卒中」について、治療や予防の最前線にいる専門家が語り合った座談会。第1回では、脳卒中のさまざまなタイプについて学びました。第2回は二人の医師に、発症した場合どのような治療を受けることになるのか、受診には何が大切なのかなどをお聞きしました。

異変感じたら迷わず病院へ

長谷川
脳卒中のタイプ別の治療法について伺います。まず脳梗塞の治療について教えてください。
佐藤
脳梗塞の治療は多岐に渡りますが、主要な二つを紹介します。まずtーPA点滴、これは血の塊を溶かす薬です。ただ、発症後4.5時間以内の方が対象です。それ以上経った方には使えない、制限時間のあるお薬です。
もう一つはカテーテル治療です。最近発展してきた治療法で、太い血管の血栓の除去に有効です。カテーテルという管を、頭の血管の患部まで持っていき、詰まった血栓を直接取り除きます。これは非常に成績が良く、脳梗塞に必須の治療法です。
今井
tーPA療法は血液の塊を溶かす点滴で、血流を再開通させます。前述の通り、時間の制限が厳しく、脳梗塞か否かの検査をしていると、それだけで60分ぐらい経ってしまいます。ということは、発症後3.5時間以内には病院に来ないと使えません。また、早く投与すれば効果も高く、出血の副作用も減るメリットもあります。
回復率は、ある程度細い血管なら半分以上有効ですが、太い血管では低くなります。脳卒中の専門医がいればどこの医療機関でも行え、できない場合でも、救急隊が適切な病院に搬送してくれます。治療は保険適用されますのでご安心ください。
脳梗塞の最新の治療は、後遺症を減らします

日本脳卒中協会の資料を基に作製

長谷川
tーPA療法は内科的療法ですが、内科と外科の手術の選択の分かれ目は。
佐藤
MRI等で検査を行うと、すぐに患部が判明します。太い血管の詰まりが確認できれば、基本的にカテーテル治療(機械的血栓回収術)を行います。
この治療法は、腕や脚のつけ根から血管内に、1メートル数十センチほどの長いストロー状のカテーテルを入れ、画像を見ながら患部まで通します。管の中にはステントという網があり、血栓に到達したら網が出て絡みつき除去します。これはtーPA療法とは違って、細い血管には行えません。
機械的血栓回収術 ステント型血栓回収デバイス

コヴィディエン ジャパン株式会社/日本メドトロニック株式会社 提供

投薬や血管内治療で梗塞再発防げる例も

今井
太い血管の梗塞の症状としては、片方のまひや言語障害が出ます。また、発症して倒れた後に発見されるのが遅れたり、睡眠中に発症したりすると、治療が間に合わないこともあります。
予防策は血圧、血糖、コレステロールの管理が重要です。最近は血液の固まりやすい方に良い予防薬が出てきました。従来、抗凝固薬ワルファリンがありましたが、納豆などビタミンKが多く含まれるものを食べてはだめなどの食事制限や、毎月の採血や薬の量の調節など、不便な面もありました。
直接経口抗凝固薬(DOAC)という新薬が登場しました。この薬は食事制限も毎月の採血、薬の調整もなく、効果も高く安全です。ワルファリンより薬価が高いのですが、値段より健康優先だと思います。
脳梗塞は心房細動が誘因することが多く、加齢とともにその傾向も高まります。健康診断は毎年受けて、心房細動が起きていないか確認することをお勧めします。もし心房細動があれば、投薬で予防は充分可能なのです。
佐藤
脳梗塞の予防としましては、首にある頸動脈が、動脈硬化を起こしやすい場所です。糖尿病やコレステロールが高いなどの生活習慣病があると、血管の壁が厚くなり、油のごみみたいなプラークがたまって脳に飛び、発症する脳梗塞もあります。これは検診で簡単に見つかりますし、その部分を外科的に手術する予防法もあります。
長谷川
続いて、脳内出血にはどのような治療を行いますか。
今井
まず、出血の勢いを抑えるため血圧を下げます。脳の周りがむくんで正常な場所を圧迫するので、むくみと悪化を抑えるのが、脳出血の最初の内科的な治療法になります。
佐藤
脳卒中は内科の治療が主ですが、くも膜下出血だけは、外科医が対応します。脳動脈瘤と言って、血管の壁が膨れたものが破裂し、脳の表面全体に出血が広がります。
くも膜下出血になったら一貫の終わり、と思う方もありますが、実はお元気になる方もいて、3分の1の方は社会復帰できます。ですが4分の1の方は亡くなるため、やはり重症な疾患です。
治療法はカテーテル治療と開頭手術の2本柱です。カテーテル治療では、直径1ミリ以下の極細の管を血管に入れて患部まで通し、こぶの中に糸状のものを詰めます。開頭手術では、こぶに血が入らないようクリップで留めます。
脳動脈瘤の手術 カテーテル手術(塞栓術)

コヴィディエン ジャパン株式会社/日本メドトロニック株式会社 提供

長谷川
これらの疾患に、前兆的な症状はありますか。
今井
脳梗塞は、手足にまひが起こる、話しにくい、片方の目だけ数分間黒く見えなくなるなどがあります。数分程度で一旦治まりますが、最初の危険信号だと思って、すぐ病院に行ってください。1週間以内に約10%が発症すると言われています。
佐藤
脳出血に関しては、残念ながら前兆はございません。ただ、脳ドックでMRIを撮った際、脳出血のリスクが高い状態が見つかる場合があります。くも膜下出血も予兆はありませんが、動脈瘤の肥大や本格的に破れる前に小さな穴が開いて血が漏れ、今までにないような激しい頭痛が起きます。そんな場合もすぐ受診してください。

リハビリ開始も可能な限り早く

長谷川
もし脳卒中を発症し、障害が生じたとしても、できる限り自立できるようになりたいものです。そこで、リハビリテーションの効用についてお聞かせください。
古賀
入院中は臥床することで筋肉や骨が衰え、下肢の静脈血栓が起きやすくなります。そこでリハビリも、機能回復と他の合併症を起こさない目的で、今では入院早期から行なう病院がほとんどです。
佐藤
実は、リハビリの開始時期によって、予後の結果に差が出てくるのです。例えば脳卒中ですぐ入院し手術をすると、翌日はまだ多くの管が体中についた状態です。それでも患者さんの意識があろうがなかろうが、患者さんがベッドに寝た状態でも、リハビリを開始します。早く始めるほど、比例して結果が良いのが目に見えているからです。
脳卒中は、容態の変化などを鑑みて、入院後2週間ほどは治療に専念しなければいけません。ただし、それ以降は回復期と言って、2~3カ月間は一生懸命リハビリに集中してほしいのです。この間、どれだけリハビリを頑張るかによって、予後が大きく変わってくるのです。後でいいやと、半年や1年後に始めたとしても、効果はあまり出ないのです。
長谷川
QOL(人生の質)を落とさないためにも、退院後も、リハビリテーションは気を抜かずに続けていくことが必要なのですね。
座談会の様子
pagetop