第3部
検診のメリット ~早期発見の重要性~

食事や生活習慣の変化などにより、病気の傾向も変わりつつあります。また、検診や手術においても技術の進歩により、体への負担を減らせるようになっています。最新の情報を専門家に伺いました。

〈企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局〉

がんは誰もがなり得る 支援制度利用し受診を

長谷川
引き続き第3部では「検診のメリット、早期発見の重要性」について伺います。これまでの話を聞いて「それでは人間ドックや検診に行ってみよう、家族にも勧めよう」と思った時、まずはどのような手続きを踏めばいいのでしょうか。静岡市の場合を例に教えてください。
小田
静岡市では、特定検診や後期高齢者向けの検診のための受診券というものは特にありません。ですが、毎年3月下旬に「成人健診まるわかりガイド」という冊子を、町内会を通じて各世帯にお配りしています。がんの検診情報や実施医療機関が掲載されていますので、ご自分が受けたい検診や施設をお決めになり、その医療機関に直接予約をしていただく流れになります。
長谷川
検診は自分で予約する必要があるのですね。ただ、金銭面や時間的な都合で、なかなか腰が上がらない人もいると思いますが、何か受診を後押ししてくれるサポートはあるのでしょうか。
小田
検診料につきましては、市の検診で受ければ安く受けられます。また乳がん、子宮頸がんは国の補助制度があります。子宮頸がんは21歳になる年度、乳がんなら41歳になる年度に無料クーポン券が対象者に郵送されますので、ぜひご活用ください。皆さん、日々お忙しいと思いますが、多忙や面倒を理由に検診を後回ししないようにしてください。
静岡市のがん検診(R5年度の内容)(加入する保険組合に、当該検診制度がない方が対象となります。)
長谷川
医療技術の進歩とともに、検診の方法も変化しているのでしょうか。
大野
胃がん検診の場合、以前は「ピロリ菌が胃にいなければ、がんになるリスクは低い」と言われていました。ですが静岡県立総合病院で内視鏡切除を行った早期胃がんのうち、ピロリ菌に感染していない方は徐々に増加し、2022年は約14%に達しました。食生活の変化などに伴い、病気の質も変わってきていると推測されます。現段階では内視鏡でもバリウム検査でも、とにかく検診を受けていただくことが重要です。
また、近年では「リキッドバイオプシー」と言われる、血液からがん細胞・がん細胞由来の物質を遺伝子解析して、比較的早期のがんを発見できる技術も出てきました。今後はさらに新たな技術が生まれることでしょう。ただ現段階では、確実性において十分なデータは出ていないと思います。
がんはどの種類でも初期症状がほとんどありません。当院ではESDなど入院が必要な内視鏡治療を年間400件以上行っていますが、その中で自覚症状のあった方は誰もいませんでした。もちろん、体重も減少しません。例えば胸焼けとか胃もたれといった胃の不快な症状があっても、それは他の原因であって、仮に胃からがんの病巣を取っても胃もたれは治らない、ということもあるわけです。
早期のがんであれば、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)でがん病巣を除去できます。直径10㌢ほどの大きながんであっても、粘膜に留まっている状態であれば、ESDが行えます。低侵襲性のため入院期間も短く、患者さんの体への負担は少なくなります。逆に、病巣が小さくても、筋肉の層まで浸潤していると、ESDでは取れないので外科的手術となります。入院期間も含め、患者さんの心身の負担は一気に重くなってしまいます。
また、当院では内視鏡治療を行う早期がんの患者数が年々増加しています。2015年に私が当院へ赴任する前は、胃、食道、大腸がんの内視鏡治療が年間140件でしたが、今はその3倍に増加しています。
静岡県室総合病院の胃がん内視鏡治療とピロリ感染(2020~2022.11月)
静岡県立総合病院の食道がん(ESD・EMR)/胃がんESD/大腸ESD
長谷川
がんの罹患者は増え続け、すでに身近な病気になってきました。改めて、各医療機関の医師たちが検診の受診を推奨する理由をお聞かせください。
古賀
生活が便利になり、食生活も豊かになったこともあってか、現在は高血圧や肥満、糖尿病、脂質異常症など、生活習慣病になる方が非常に増えています。健診を受けることで、これら病気の早期発見と早期治療につながりますが、一番の目的は病気そのものの予防です。早期発見、早期治療すれば、完治が見込めて医療費も軽減できます。自覚症状のない病気を見逃さないためにも、年に1回、最低でも2年に1回は定期的な受診をお勧めします。
長谷川
がんサバイバー(経験者)として今は元気に職場復帰され、検診の大切さを伝えている小田さん、一言お願いします。
小田
がんは誰でもなり得る病気なんだと、身をもって実感しています。今後、もし皆さんががんと診断されても、悲嘆せずに「これもライフイベントの一つだ」と、前向きにとらえてみてはいかがでしょうか。私は手術の時「手術台って、平均台みたいにこんなに狭いのか」と、好奇心を持ちながら受けた思い出があります。治療中はさまざまなことを経験するので、それも一つの人生かなと思います。ですので、検診も面倒がらずに、楽しむような気持ちで受けていただければと思います。
大野
今回は胃がん、大腸がんを中心に話をさせていただきました。医療の現場にいて思うのは、膵臓がんなど発見や治療が難しいがんもありますが、一般的には胃がんや大腸がんは早期発見しやすく、治る可能性も高いがんです。検診を行わずに、このようながんで命を落とすことは非常にもったいないとも言えます。ご自身はもちろん、大切なご家族のためにも人間ドックや検診を継続されることを強くお勧めします。
治るべき病気は早く見つけて治す。ご自身はもちろん、大切なご家族のためにも、人間ドックや検診は毎年欠かさずに受けていただき、健やかな日々を過ごしていただきたいと願っています。
健診(ガン検診)の意義
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