第1部
がん検診を知る ~内視鏡検査~

人生100年時代が到来しています。平均寿命は延び、日本でもがん患者は増え続けています。がんは怖い病気ではありますが、早期発見できれば生存率が高まるケースもあります。がん発見に欠かせないのが検診です。

〈企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局〉

精度高い胃カメラ、手術回避にも

長谷川
今回は「胃がん検診・大腸がん検診に迫る」をテーマに、検診の大切さを学んでまいります。第1部は「がん検診を知る~内視鏡検査~」の話を進めていきます。平均寿命が延びている今、がんに罹患(りかん)する人が増えています。がんの早期発見に欠かせないのが検診です。
大野
私は胃や食道、大腸といった消化管治療を専門にしています。現在、早期がんを内視鏡で取る際、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という治療法が主流です。当院でも年間約400件実施し、胃がんの治療件数は全国で15位と高い実績を誇っています。
小田
私は静岡市が行っている検診の業務に携わり、運営、契約、支払い、啓発活動を行っています。実は私自身、8年前直腸がんになりました。職場の検診で便潜血が出て精密検査をしたところ、がんが見つかったのです。検診のおかげで命拾いできたと思っています。
長谷川
わが国では国民の2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなっています。そこで厚生労働省では、がん検診の受診率の目標を50%に掲げています。
古賀
私は他県の総合病院で血液内科勤務を経て、今はSBS静岡健康増進センターで人間ドックや健診、診察にあたっています。がんは近年、罹患者数が増えていますが、医療の進歩とともに治癒率も向上しています。ですが、治療効果を上回るのがやはり早期発見なのです。
当センターには、年間約3万人が人間ドックや健診に訪れています。とても多くの人がご自身の健康について関心が高いと感じています。ちなみに、健診に年齢制限はありません。90代の方も来られるほどです。
長谷川
何歳になっても健康管理は大切ですね。静岡市のがん検診について教えてください。
頻度の高いがんと変化 頻度の高いがんと変化
年齢調整 罹患率・死亡率 年齢調整 罹患率・死亡率
小田
静岡市では胃、大腸、肺がんと、乳がん、子宮頸がんと多様ながん検診を実施しています。加入されている保険組合で、希望するがん検診の制度がない方が対象です。主には国民健康保険や後期高齢者医療の方が対象です。例えば胃がん検診の受診率は令和3年で11.9%と高い数値とは言えないのが現状です。市としても、市民への啓発活動や医療機関、検診機関の整備をさらに拡充しようと努力しています。
長谷川
現在、胃がん検診はどのように行っていますか。
大野
従来はバリウムを飲んでエックス線撮影を行う検査が主流でしたが、近年は精度が高い胃カメラによる検査が増えてきています。バリウムにも利点はありますが、ごく早期のがんは見つけにくい難点があります。胃がんの主原因とされるヘリコバクター・ピロリ菌は幼児期に感染して、何十年と胃の中にすみ続けます。2000年からは、ピロリ菌の除菌治療は保険で認められるようになりました。
ただ、除菌をしてもすぐ胃がんのリスクはなくなりません。目に見えない微小ながん細胞が進行し、早期がんと確認できるようになるまでに10年はかかるからです。
長谷川
古賀先生、全国的な検診受診者数の傾向はいかがでしょう。
古賀
2018年のデータでは、全国で年間約360万人が1日人間ドックを受けています。人間ドックは健診よりも検査項目が多いのですが、料金と所要時間の点で二の足を踏む方もいるようです。ただ、年に1回のことですから、少し時間とお金をかけてでも、ご自分の健康チェックはしてほしいのです。人間ドックの方がよりおすすめです。
健診によるがんの発見数では、乳がん、子宮がんで増えている印象があります。また、大腸がんの便潜血反応検査で見られる出血を即、がんだと曲解しないでください。他の原因も考えられるからです。便潜血反応検査は手軽な上、非常に有益な検査ですので、ぜひお勧めします。
小田
静岡市民による精密検査後の受診率ですが、令和3年度のデータで、胃がんが58.2%、大腸がんが60%でした。「要精密検査」と言われたのに、受診をしていない方は今、大丈夫なのだろうかと心配になります。「自分はがんにならない」と誤った思い込みをする方は案外少なくありません。過信せず、検査結果には素直に従ってください。
長谷川
例えば胃がんだった場合、どのような手術を行いますか。
大野
粘膜層にとどまる早期胃がんはESDなどおなかを切らずに内視鏡で切除出来る場合が多くなりました。これより進行した場合は外科手術でおなかを切りますが、大きな傷を残す開腹手術は減り、おなかに小さな穴を開け鉗子(かんし)を入れて行う腹腔鏡手術が普及しました。さらに近年は「ダ・ヴィンチ」というロボット支援下手術も導入され、狭い空間などで効果が期待されています。それでも内視鏡切除の方が体への負担は少ないことは確かです。ですから進行する前にがんを早期発見することはとても大事なのです。
お腹を切らずに治るのは早期がん お腹を切らずに治るのは早期がん
長谷川
胃がんは大きさも然りですが、病巣の深さも大切と伺い、早期発見、検診への気持ちが引き締められました。大野先生、胃がん検診で補足がありましたらお願いします。
大野
患者さんから胃のポリープについて、よく問い合わせを受けます。実はポリープは胃の中のピロリ菌の有無によって、リスクが大きく変わります。以前、一部の胃ポリープは「幸せポリープ」と呼ばれていました。正式には胃底腺ポリープという名称で、ピロリ菌がいない胃にできやすい特徴があります。つまりこれがある方は胃がんになりにくいという意味です。ただし、最近はピロリ菌がいない胃がんの患者さんが増えてきています。ポリープに対して過度の心配をする必要はありませんが、検診は毎年受けるようにしてください。
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