後編肝臓・膵臓の治療と予防

肝臓と膵臓の病について、前回はどちらも自覚症状があまりなく「発見が難しい」という現状についての理解を深めました。今回は、それぞれの検査法・治療法について学び、病を予防するためどのようなことに気をつけたらいいのか、大切な心構えを聞きました。
キーワードは「早期発見」です。

健康診断や節制で早期発見を

長谷川
肝臓、膵臓の疾患は、どちらも発見しづらいというお話を伺いました。それでも早期発見のために、どんな点に気をつければよいでしょうか。まずは肝臓について教えてください。
濱村
ここでは、肝臓について言いますが、すべての病気の予防や早期発見に言えることが三つあります。一つめは「節制」です。一番肝臓にダメージを与えるのはお酒です。例えば、毎日晩酌をする人は、肝臓の予備能を減らし、肝不全症状が出やすくなりますし、肝臓がんも発生しやすくなります。また、食べすぎも、脂肪肝につながります。二つめは「健診」です。無症状の人の肝機能障害、脂肪肝、B型・C型肝炎を発見するのに役立ちます。そして、三つめは「知識」です。知らないために、肝炎を発見したり、治療したりする機会を逃している人がたくさんいます。その代償は大きいです。少なくとも、自分のかかっている病気や、服薬中の薬の情報は大事です。医者まかせではいけません。「自分の健康は自分で管理する」という意識が必要です。
肝臓の病気を予防するには
濱村
ところで、肝臓には大きな予備能力があり、それに比べると、普段はわずかしか働いていないと申しましたが、緊急時、例えば、けが、手術、感染症などの際には予備能力が大活躍します。状況の変化にいかに幅広く柔軟に対応できるかというのは、いわば、「臓器のダイナミックレンジ」といえます。飲酒や、無治療の肝炎は、この幅を著しく狭めてしまいますので、不測の事態に、肝機能が間に合わず、肝不全症状を起こしてしまいます。ただ、肝臓には再生能力があります。禁酒や肝炎の治療によって、予備能力が回復します。今からでも遅くはないので、飲酒を控え、肝炎があれば積極的に治すようにしましょう。
それから、肝臓がんは遺伝しません。むしろ、後天的に起こった炎症が長引くことで、肝臓が固くなり、がんが発生しやすくなります。また、加齢も影響します。例えば、同じ肝硬変でも、40歳以下では、年に0.5%しか発がんしませんが、60歳を超えると、それが一気に12.5%にまで上がります。
肝臓の固さ、つまり、肝の線維化の程度を推定すると、癌の発生しやすさがわかります。その指標としてFib-4インデックス、M2BPGi、フィブロスキャン、MRエラストグラムがあります。
臓器の予備能の話 ― 授かった臓器は大切に

脂肪肝の改善には食事と運動で減量

長谷川
肝臓の病気には、どのような治療が行われますか。
濱村
私が医者になった1987年は、まだ、C型肝炎は発見されてなく、B型肝炎も治せない時代でした。90年代にインターフェロンが登場し、以降次々と新薬が登場しました。C型肝炎で1型高ウィルス量(1型で血中ウィルスが10?/ml以上)の患者のウイルス駆除率は、90年代は10%程度だったのが、今では100%に近づいています。また、肝不全症状が進行した患者でも、場合によってはウィルス駆除が可能になりました。
B型のウイルス駆除は、C型と異なり、今のところ不可能です。これは、ウィルス遺伝子が、人の遺伝子に組み込まれてしまうからです。それでも、エンテカビルやテノホビルによって、長期間ウィルスを制御できるようになりました。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)には、今のところ、良い治療薬がありませんので、食事と運動で減量を図ります。体重の3~5%減量で脂肪肝が改善し、7~10%の減量で、肝線維化が改善すると言われます。食事は野菜、果物、ナッツ類、オリーブオイル、魚介類が豊富な「地中海式」がお勧めです。運動は5~6メッツ、安静時の代謝量が1メッツで、その5~6倍、サイクリング程度の運動を週3~5回、合計150分~200分行いましょう。通勤などの毎日のルーティンに組み込めると長続きします。
それから肥満手術の話をします。肥満手術には、胃を切除して小さくするなど、いくつかの方法があります。「肥満なんかで手術なんて」という考えが、まだ根強いのですが、脂肪肝から肝硬変に移行し、最終的に移植しか治る手段がない、そうして、現実には移植ができずに亡くなる患者も多く、そうなるよりは、手術をした方が、まだ生存の余地があるのです。
肝臓がんの治療には、外科手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓術、抗がん剤などがあります。治療法は、癌の大きさ、病変の数、肝機能でおおむね決まります。
肝細胞癌の治療

膵臓がん家族歴で発症リスク高まる

長谷川
膵疾患の検査法、治療法について教えてください。
川口
膵臓がんは内科的な治療というよりは、外科的にいかに早期に手術を行い、膵臓がんの予後を延長させるかが重要です。膵臓がんの家族歴がある場合、1人なら4.5倍、2人で6.4倍、3人以上いると32倍も発症のリスクが高まります。また、遺伝子異常が原因となる場合は、発症をにらんだ経過観察が必要です。
経過観察する検査方法は、被ばくのない腹部エコー、超音波内視鏡、MRIが挙げられます。特に超音波内視鏡で検査するとCTやMRIよりも小さな病巣まで見えます。より小さなサイズのがんを発見できるので、外科手術を行っても長期の予後が望めると期待されています。当院でも専用の内視鏡の数を充実させ、年間1000件以上超音波内視鏡検査を実施しています。
超音波内視鏡検査:EUS
川口
早期に発見された予後良好な膵臓がんの危険因子にも、糖尿病、喫煙、膵のう胞、慢性膵炎などがありますが、発症時に腹痛や背部痛など自覚症状を認めたのはわずか24%でした。すなわち、4分の3は無症状なのです。
当院のデータでは、急性膵炎の患者さん180人のうち、12名に膵臓がんが発見されました。膵炎の原因はさまざまですが、小さな膵臓がんが原因で膵炎を発症していないのかを常に疑い、専門施設で経過観察することが必要です。
膵がんの初発生症状を比較してみると
川口
そして膵炎の危険因子には喫煙があります。ヘビースモーカーだと、慢性膵炎へのリスクが4倍以上高まると言われます。禁煙を20年以上行えば、吸ったことがないレベルまでリスクをぐんと下げられますので、ぜひ長期間の禁煙を目指しましょう。
アルコール性急性膵炎には、禁酒が必要です。禁酒しないと高確率で慢性膵炎になります。お酒が原因で慢性膵炎、急性膵炎を起こしている方は、禁酒が最大の治療になるのだとどうぞ肝に銘じてください。
膵がんの危険因子
古賀
今回は肝臓と膵臓の話でしたが、他の臓器も含めた多くの病気を予防して、早期発見するためにも、年に1回の人間ドックや健診の受診はとても大切です。面倒がらず、職場や自治体での健診の機会があれば、ぜひ受けるようにしてください。
長谷川
肝臓、膵臓の病気は、発見が難しいからこそ健診が必要なのですね。また、1回の検査で異常がなかったからといっても、油断大敵です。定期的に健診を続けましょう。また、ご自身や家族に、膵臓や肝臓の既往歴がある方は、この機会に健診を受けたり、かかりつけ医に相談したりすることをお勧めします。

今回の講演は動画でご覧いただけます。

  • 肝臓の病~治療と予防~(動画分数17分23秒)
    16秒~/肝臓の病~治療法~、8分53秒~/肝臓の病~予防法~
  • 膵臓の病~検査と予防~(動画分数15分47秒)
    15秒~/膵臓の病~検査法~、12分47秒~/膵臓の病~予防法~
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