前編肝臓・膵臓の機能と主な病

肝臓は「沈黙の臓器」、膵臓は「暗黒の臓器」とよばれることがあるように、病を発症しても痛みや自覚症状があまりなく、病気に気づきにくいとされています。予防や治療の最前線にいる専門家に、二つの臓器の働きや主な病、予防の大切さについて聞きました。
聞き手はフリーアナウンサー長谷川玲子さん。

「沈黙の臓器」と「暗黒の臓器」

長谷川
今回は肝臓・膵臓の病がテーマですが、この臓器を選んだ理由はなぜでしょうか。
古賀
当センターでは人間ドックで腹部エコー検査を行い、年間約1万5000人が受診されています。男性の場合31%、女性は13%の方に脂肪肝が見られました。今は肥満やメタボリック症候群の患者さんが非常に増えております。
また膵臓は「暗黒の臓器」と言われております。膵臓がんは初期の1期で発見されれば5年生存率が41%ですが、有効な治療法がまだなく、進行するにつれ、非常に生存率が下がる怖いがんです。これらの観点から、肝臓と膵臓についてぜひ皆さんに知ってほしいと思いました。
長谷川
そもそも肝臓と膵臓は体のどの位置にあり、どんな機能があるのですか。
濱村
肝臓は体の中ほどにある1キロを超える大きな臓器です。その特徴は、血液の流れを見ると分かります。腸からの血液はそのまま心臓に戻らず、一旦肝臓を通り、栄養素の代謝、毒素の分解、細菌の除去などの処理をされます。
川口
膵臓は胃の背中側にあり、十二指腸や脾臓に囲まれた細長い形の臓器です。膵臓の働きは二つあり、一つは外分泌機能といって、消化を助ける酵素を作ります。
もう一つは内分泌機能で、血糖に関わるインスリンとグルカゴンというホルモンを作ります。長さは約18センチで厚さが2センチ、重さは約100グラムと小さいながらも、生命に関わる臓器です。
長谷川
さて、肝臓の病と言うと、肝炎、脂肪肝や肝硬変、肝臓がんを思い浮かべますが、それぞれの特徴を教えてください。

終末期になるまで症状はほぼ出ない

濱村
肝臓の病気は炎症と腫瘍に大別されます。炎症には急性と慢性肝炎が、腫瘍は良性と悪性腫瘍があります。
急性肝炎では、A、B、C、E型などのウィルス性のほか、自己免疫性肝炎、急速妊娠脂肪肝、薬剤による肝炎があります。これらのうち、B型、C型、自己免疫、薬剤は慢性肝炎に移行することがあります。慢性肝炎のうち非アルコール性(お酒が原因ではない)脂肪肝炎も深刻な病気です。
良性腫瘍には、血管腫、腺腫があり、悪性腫瘍には、肝細胞癌、胆管細胞癌、リンパ腫、類上皮性血管内皮腫、他臓器癌の転移があります。
肝臓は、「沈黙の臓器」といわれるとおり、終末期になるまで症状が全くなく、「症状がないから」と気に留めずにいると、手遅れになることも多いです。
肝臓の病気
濱村
慢性肝炎を放置すると、肝硬変に移行しつつ、肝臓がんも発症します。肝硬変になると、初期には症状がありませんが、次第に腹水が溜まり始めます。さらに病状が進むと、黄疸、意識障害、吐血など、重い症状が現れます。肝臓がんは、一般的には、肝細胞癌のことを言いますが、その背景には、慢性肝炎が必ずあります。肝硬変になると、肝臓がんを発症しやすくなりますが、高齢者では、そうなる前にも肝臓がんが生じます。肝臓がんの早期発見で一番大事なのは腹部エコー検査です。エコーで疑いがあれば、CTやMRIで診断を確定します。
肝硬変と臨床症状
長谷川
続いて、膵臓の病気について教えてください。
川口
膵臓の主な疾患は四つ挙げられます。まず、急性膵炎。膵臓の自己消化で発症し、重症化すると死亡率は10%以上です。全国調査によれば、年間の医療機関の受療者が約6万3000人と言われます。
慢性膵炎は持続性の炎症により、外分泌・内分泌機能が低下し進行すると消化吸収不良や糖尿病を引き起こします。こちらも全国で約6万7000人の受療者がいます。
膵臓がんに関しては、主に膵液が流れる導管を発生源とします。がんの中でも最も予後の悪い悪性腫瘍で、進行が早く、早期発見が困難です。
膵のう胞性腫瘍のなかには、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)といわれる膵がんの危険因子になる疾患があります。また、膵のう胞がある人は、ない人よりも3倍膵がんになりやすいので、定期的な経過観察が必要です。喫煙が膵臓がんのリスクになると言われていますので、禁煙しましょう。
膵臓の主な疾患
長谷川
脂肪肝や肝臓がん、そして膵臓がん、いずれも発見しづらい点が共通していますが、なぜでしょうか。
濱村
肝臓は予備能(使っていない能力)が大きく、健康な人は、日ごろ、その全機能のうちのわずかしか使用していません。なので、多少肝臓に負荷がかかっても、予備能で対応できます。ですから、よほど、予備能がなくならない限り症状が現れないのです。例えば、肝臓から来る倦怠感や食欲不振は、黄疸や腹水がひどくなって、いよいよ最期というときまで、現れません。「症状がないから大丈夫」と肝臓の予備能に甘んじてはいけないのです。

他の臓器に囲まれ病巣の発見は困難に

長谷川
肝臓は頑張り屋で、黙って働き続ける臓器なのですね。さて、膵がんも早期発見がしづらい疾患です。
川口
膵臓はおなかの裏側の後腹膜にあり、胃や十二指腸に囲まれています。検診で行う腹部エコー検査をすると、胃や十二指腸内のガスが邪魔になって、見えにくく、それが膵がん発見の難しさの理由のひとつです。そのため膵臓がんの5年生存率が11%台とかなり予後が厳しい疾患なのです。
そこで、現在では超音波内視鏡という検査が行われています。小型の超音波機が胃カメラの先端についている特殊な内視鏡で、専門的な施設で実施され、より早期の段階で膵臓がんを発見する試みがなされています。
どうして膵がんは早期に発見しづらいのか?
長谷川
シビアな数字も出ましたが、肝臓、膵臓ともに発見が難しいのですね。
古賀
どちらも、自覚症状がなかなか現れないのが課題です。乳がんのように、外から触って分かる病気でもありません。ですから、検査がとても大切です。血液検査や超音波検査、CTなどを行うことで、早期発見に結びつけることが重要です。ぜひとも、健康診断や人間ドックを活用していただきたいと思います。
また、血液検査における血小板の減少は重要な注目ポイントです。肝硬変になると、腫れてきた脾臓が血小板を食べ始めるため、減ってしまうのです。血小板が減る病気には、白血病や特発性血小板減少性紫斑病、再生不良性貧血もありますが、肝硬変の病状を見るのに役立ちます。肝硬変が改善すると、血小板も増えてきます。
長谷川
肝臓と膵臓は、我慢強い臓器だけに、病気を発症しても自覚症状が分からず、発見が遅れがちになるのですね。改めて、定期的な健康診断や人間ドックの必要性を感じました。
座談会

今回の講演は動画でご覧いただけます。

  • 肝臓の機能と主な病(動画分数15分27秒)
    38秒~/肝臓の機能、4分30秒~/肝臓の主な病
  • 膵臓の機能と主な病(動画分数16分16秒)
    1分15秒~/膵臓の機能、5分56秒~/膵臓の主な病
pagetop