第3回糖尿病の治療
日本人の現代病といえば、「生活習慣病」の一つ、糖尿病。栄養の偏った食事、運動不足、遺伝的問題など、発症要因はいろいろあり、重い合併症も知られていますが、薬の開発や生活改善で、発症を遅らせたり、治すこともできるようになりました。糖尿病の最新情報を3回にわたり紹介する「教えて!健康」シリーズの最終回は、「糖尿病の治療」です。
健康診断や早期治療で、重症化を防ぐ
1に食事、2に運動、3に薬
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- 遠山
- 糖尿病と診断されてしまったら、どのような治療をしていけばよいのでしょうか。
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- 遠藤
- 治療の根本は当然ながら食事療法、運動療法です。それから薬剤による治療です。その中で、とても重要なのは今の生活習慣の問題点を看護師や管理栄養士など専門家と一緒に考えて対策に取り組むことです。重症の場合は、薬剤による治療も行いますが、やはり根本は食事や運動等の生活習慣の改善だと思います。医師としても、患者さんから、生活状況をよく聴取してから治療することを心掛けています。特に肥満を要因とする2型糖尿病は、生活習慣の改善だけで効果がある場合も多いです。糖尿病は、完全に治癒することは難しい病気ですが、継続的な食事・運動療法で限りなく良好にコントロールし、健康長寿を達成することは十分可能です。
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- 田村
- 繰り返しになりますが、糖尿病は遺伝プラス生活習慣によって発症してくるものです。初期の段階であれば、きちんと食事・運動療法をすることによって、糖尿病の発症をかなり遅らせることができます。発症の時期が遅れると、さまざまな合併症についての危惧も減ってきますので、発症しないようにする、あるいは悪化しないようにするという部分では、生活習慣の改善で大きく成果を得られると思います。
食事制限は専門家に相談を
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- 遠山
- 具体的にはどんな食事・運動療法を行いますか。
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- 遠藤
- まず、適切な食事・運動療法を実践しないと、いくら薬剤で治療しても良くなりませんので、管理栄養士との面談などを通して、食品交換表に基づく1日の必要カロリーを算出し、食生活を改善していきます。飲料をノンカロリーにしたり、なかなか自分で調整できない男性や高齢者などには、カロリーに配慮した宅配食の活用を勧めたりしています。食事のとり方としては野菜から先に食べることなども推奨しています。運動については、毎食後、寝る時以外は万歩計を付けて生活すること、外に出られない人はストレッチや竹踏みでもいいですし、家事を一生懸命やることも運動の一つです。また、可能な場合はランニングマシンなど室内でできる運動器具を活用することも勧めています。必ずしも食後にこだわらなくても、運動習慣を身に付けることがまずは大事だと思います。肥満のある人では、体重の5%落とせば、相当症状が良くなります。ただ、やせ型で糖尿病の人はインスリンの分泌不良が関係していると考えられますから、適切な薬剤による治療を考えていただきたいと思います。
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- 田村
- これまで糖尿病の治療は、血糖降下薬を中心に、糖の吸収を抑える薬、インスリン作用を改善する薬などが使われていました。多くの合併症が血糖を正常化することにより克服できると考えられていましたが、最近では下げ過ぎたことによる低血糖の危険が重視されるようになってきました。数年前からはインクレチンという物を食べたときに消化管から分泌され、すい臓に作用してインスリンの分泌をコントロールしているホルモン作用を調節する薬剤が使用されることが多くなってきています。この種類の薬剤は食欲を抑制し、食後の高血糖を改善でき、また低血糖を起こしにくいのが特徴です。また血糖をコントロールするだけではなく、境界型糖尿病の時期から生じる動脈硬化の予防といった点から、コレステロールを下げる薬剤の使用が勧められるようになってきています。
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- 遠山
- 糖尿病は治療が長期にわたる病気ですが、どの治療も無理せず続けることができるといいですね。
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- 土屋
- やはり、家族のサポートというのが一番大切で、家族の皆さんにはサポートできるような体制づくりを日頃から心掛けてほしいですね。たとえば、治療はさまざまな我慢を強いられるものです。頑張って治療に取り組む家族が上手に褒めて、明るくポジティブに治療に向かう気持ちを出してあげることがとても大切ではないかと思います。
かかりつけ医の役割再認識
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- 遠山
- 地域のかかりつけ医とのコミュニケーションも大切ですね。かかりつけ医が果たす役割は何だと思いますか。
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- 遠藤
- 私は総合病院で長年勤務した後、開業して10年経ちましたが、開業医に必要なことは患者さんと同じ目線でお付き合いすることだと思います。「最近、こんなことがあってうれしかった」、逆に「困った」などの些細な相談や時には愚痴なども、結果として治療に役立つことも多いものです。大きな施設とは違い、顔なじみの看護師や受付のスタッフがいるのも大きなメリットだと思います。“お友達”になり過ぎると、治療に逆効果の場合もありますが、スタッフが一緒になって患者さんの日常の出来事に共感しながら、「受診しやすい」診療所になるように環境を整えて治療をサポートしていきたいですね。
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- 田村
- 特に糖尿病のような病気は、気軽に受診できる「かかりつけ医」の役割は大きいと感じています。診療所なら、症状によって診療の間隔を短くしたり、長くしたりと、きめ細かい対応ができると思います。糖尿病は、患者数の多い病気ですから、どの科の医師でも広く知識を持つことが大切で、かかりつけ医と総合病院との情報共有、連携もとても大切になってくると思います。
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- 遠山
- 今後、ますます増えるといわれている糖尿病について、静岡県はどのような対策を考えていますか。
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- 土屋
- 実は、特定健診で糖尿病と診断された県内受診者のうち、4割を超える人が病院を受診していない現状があります。お医者さんにかからずに投薬などの適切な治療を受けなければ、病気が進行し、本人が辛い思いをすることはもちろん、やがて医療費の増大にもつながります。そのため、県としては、来年度は「重症化の予防対策事業」を考えています。「糖尿病」と診断されて治療を受けてない人や自己中断してしまった人をどのようにフォローし、治療につなげるかについて、体制整備などいま一歩踏み込んだ対策を進める予定です。また、今後も、60万人にも及ぶ特定健診のデータを分析して「見える化」を行い、健康課題を明らかにして地域の実情に応じた健康づくりに取り組んでいきたいと思っています。
企画・協賛/SBS静岡健康増進センター 静岡市駿河区登呂3-1-1 電話 054-282-1109
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