第1回 糖尿病はなぜ怖い?
日本人の生活習慣病の一つ「糖尿病」は、偏った食事や運動不足、遺伝的問題などさまざまな発症要因によって起こる病気です。合併症も多く、発症すれば食生活の管理が一生必要になるなど特に働き盛りには厄介な病気です。最新の治療や予防について3回にわたって紹介します。第1回のテーマは「糖尿病はなぜ怖い」です。
がんの発症とも関係する糖尿病
多くの合併症で死に至る病気
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- 遠山
- まず、糖尿病はどのような病気なのでしょうか。
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- 遠藤
- 慢性の高血糖が続く状態で、それが過度になると口渇、多飲、多尿、体重減少が起こり、神経障害が高じれば足のしびれが生じます。糖尿病網膜症が進展すれば視力も低下します。最終的には、動脈硬化を起こして、“全身病”になります。早期発見、早期治療でこのような合併症から免れることができるものの、初期のうちは症状がないため、特定健診・人間ドックなどの健康診断が大切です。
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- 遠山
- 「糖尿病」はなぜ怖いと言われるのでしょうか。
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- 遠藤
- ひどくなると「足を切断する」などとよく言われますが、それは、さまざまな血管障害、心筋梗塞などの合併症を引き起こす病気だからです。治りにくく、治療を尽くしても、健康人よりも10年ほど寿命が短いと言われています。最近では、がんとも深く関係していることが分かってきていて、糖尿病患者の最大の死亡原因は、がんです。2013年に行われた日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会報告では、たとえば、糖尿病患者が大腸がんになる確率は糖尿病でない人の1・36倍、肝臓がんが2・24倍、すい臓がんは1・85倍となっています。さらに、女性特有の病気では子宮体がんが1・68倍、卵巣がんが2・42倍と高くなっています。
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- 土屋
- 予想以上にがんになる確率が高いのですね。
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- 遠藤
- 糖尿病とがんの共通因子には、加齢や性別、肥満、運動不足、不適切な食事、食物繊維の不足、過剰飲酒、喫煙などがあります。言い換えれば、糖尿病の患者さんが食事療法や運動療法にきちんと取り組み、さらに、節酒や禁煙を心掛ければ、がんのリスクも減少します。
歯周病や認知症のリスクも
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- 遠山
- 合併症はがんだけではないですね。
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- 遠藤
- 最近では歯周病とも関係していて、糖尿病になると歯周病も重症化します。また、食後の血糖値上昇が原因で、アルツハイマー病などの認知症のリスクも糖尿病でない人の2~4倍というデータもあります。
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- 遠山
- 食事の後、歩くように言われるのは血糖値を下げるためですか。
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- 遠藤
- そうですね。食後の血糖値上昇は動脈硬化にもよくないと言われているため、食後の運動は重要です。ただ、内服薬やインスリンを使っている場合、低血糖になることがありますが、高齢者で低血糖が頻発する場合はこれも認知症のリスクになると言われています。高齢化社会の今、認知症は社会問題の一つになっていますので、糖尿病の大きな合併症としても、心筋梗塞や失明、腎不全に加えて、今後より注目されてくるのではないかと思います。
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- 土屋
- 県でも、「糖尿病をきっちり治療していれば、認知症のリスクも減り、がんも予防できる」というようなメッセージを送って、県民の健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上に努めたいと思います。
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- 遠山
- 糖尿病は、すい臓のβ細胞が破壊して起こる1型と遺伝的体質や肥満によって環境要因が加わって起こる2型に分かれますが、日本人と外国人の違いなどはあるのでしょうか。
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- 田村
- 1型糖尿病は、幸い日本人は欧米人よりも発症しにくいといわれていますが、2型糖尿病、いわゆる遺伝と生活習慣病が原因の糖尿病の場合は、日本人やアジア人のほうが欧米人よりも発症しやすいと言われています。肥満度を示すBMIでは、欧米の人は25を超えると糖尿病になりやすいと言われていますが、欧米で暮らす日本人は23を超えると発症の危険が高くなるというデータもあります。生活スタイルや人種によっても異なりますが、日本人の糖尿病は遺伝的なものと生活習慣によるものの両方に強く影響を受けています。
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- 土屋
- 県の調査で、平成24年度に特定健診を受けた人のデータがあり、肥満の人が糖尿病や高血圧と脂質異常のリスクをどのぐらい持っているかが分かるのですが、肥満群はやはり糖尿病になるリスクが非常に高いという結果になっています。食生活を中心とした生活習慣の改善が今、われわれに不可欠な状況だと思います。
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- 田村
- 肥満が起こる状況はカロリーが慢性に過剰に摂取された状態です。血糖値は体内では非常に厳密なコントロールを受け、脳の活動を支えるなどしておりますが、カロリーの過剰な摂取が続いていると、血糖をコントロールしているインスリンやグルカゴンなどのホルモンのバランスが崩れ始めます。このようなバランスの崩れが糖尿病などの生活習慣病を発症させる要因になっているのだと思います。
より明確になった診断基準
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- 遠山
- 糖尿病は万病の元ですね。診断基準は昔と随分変わってきたようですね。
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- 田村
- 新しい診断基準では血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1cの値が取り入れられ、また診断数値が国際的な基準に合わせられました。空腹時血糖126mg/dl、糖負荷後2時間で200mg/dl以上、あるいは随時血糖が200mg/dl以上、ヘモグロビンA1c6・5%以上のいずれかが確認された場合「糖尿病型」と判定します。以前に比べ、診断しやすい基準となっているほか、国際的なデータと比較しやすくなっています。
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- 遠山
- 糖尿病の県内の予備群はどのくらいですか。
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- 土屋
- 平成24年度の特定健診の中では、男性28万人のうち4万1000人が予備群で、3万3000人が有病者です。女性は25万人受けていまして、3万4000人が予備群で、1万5000人が有病者です。県内でも、西部と東部地域に多いというデータがあります。
子どもの肥満と糖尿病の関係
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- 遠山
- 食生活の乱れから子どもの肥満も増えていると感じます。肥満は都会と田舎という地域性も関係しているのではないかと思うのですが。
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- 遠藤
- 親の生活習慣、食習慣が子どもの肥満に影響してきます。それから、両親のどちらかが糖尿病の遺伝子を持っていると発症するリスクはかなり高くなり、30代、40代で発病する場合もあります。
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- 遠山
- 子どもの肥満は学校でもっと検査していくべきだと思いますがいかがでしょうか。
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- 土屋
- 静岡県では多くの中学1年生で生活習慣病予防検診を行っていますが、最近の特徴として、標準体重の子が減り、肥満または痩せている子が増えていると聞いたことがあります。これは食生活の乱れが原因です。年長児の子が1人で朝食を食べる割合が15・5%あり、孤食の子どもは肥満や過体重になりやすいというデータもあります。県内でも「0歳から始まるふじのくにの食育」というスローガンを掲げて食育を啓発していますが、朝食を家族そろってきちんと食べるなど食生活の改善を、味覚が完成する前の乳幼児のうちからもっとやらないといけないと考えています。また、野菜を中心とした和食を給食などに取り入れることも検討されています。
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- 遠山
- 糖尿病の発症に性差はありますか。
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- 田村
- 糖尿病は男性で発症頻度が高く、男性に多い喫煙者では非喫煙者よりも発症するリスクが1・6倍と高くなっています。
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- 遠山
- 糖尿病が短期間で悪くなることはありますか。
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- 遠藤
- やはりストレスが過食の原因となり、糖質の過剰摂取が、糖尿病の悪化につながります。また特に冬場は、風邪やインフルエンザなどの感染症で糖尿病が悪化してくることがあります。勤務者では残業、夜勤、転勤など仕事環境の変化や、若年層の場合はスナック菓子や清涼飲料水の過剰摂取など食生活の乱れも症状悪化の原因となります。高齢者の場合は足腰やひざの痛みなどが原因で運動量が減り、急に悪くなる場合もあります。
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