第2回がん検診の進化

日本人の二人に一人がかかると言われる身近な病気「がん」の検診・診断・治療の近年の変化について、予防や治療の最前線にいる専門家が語り合った座談会。第2回は平成の30年余りの間に検査機器がどう変ったのか、がん研究がどこまで進んでいるのかなどについて「がん検診の進化」と題してお伝えします。

CTや内視鏡診断に革新

長谷川
平成という時代の約30年間、がん検診の機器はどう進化しましたか。
古賀
レントゲン、CT、内視鏡…とさまざまな画像検査のデジタル化が可能になり、種類や時期の異なったさまざまな検査データも、瞬時に見ることができるようになりました。かつてはレントゲンフィルムが主流で、現像の手間、膨大なフィルムの保管、探すのもひと苦労でした。
千原
デジタル化によってメリハリのついた映像になり、診断の精度が高まったと同時に、病院内での情報共有も容易になりました。
大きな進歩と感じているのは、レントゲン写真でおかしいなとなった時に撮るCT(コンピューター断層写真)です。レントゲン写真は押し花みたいなものです。撮影すると、立体的な体のすべてが1枚のフィルムに写ります。心臓や内臓、骨は白く写り、肺がんも白く写るので、骨が重なる場所や心臓と重なる場所の肺がんは判別しにくい。例えるなら、氷原の北極でシロクマを探すようなものです。その点、CTは体を断面を薄切りするように撮影できるので、患部の位置や形状が分かるので適切な診断ができるのです。
CTで撮影した小型の肺線がん
大野
消化器のがん診断は、内視鏡が進歩しました。手元のボタンでNBI(狭帯域光観察)に代表される特殊な光に切り替え、早期がんを的確に診断できるようになりました。
AI(人工知能)によるがん診断も研究が進んでいます。極めて小さながんを除けば、高確率で、しかも一瞬にして診断可能です。数年以内にはAIを搭載した機器が商品化されるでしょう。そうなればどの医療機関で内視鏡を受けても、高精度のがん診断が期待できます。
今どきの食道がん検診
古賀
一部のがん検診は、多くのアプローチから行えるようになりました。例えば胃がんの要因のヘリコバクター・ピロリ菌も、血液や呼気法、便や尿などの検査で菌の有無を検査、診断できます。
長谷川
がん検査にはPET(陽電子放射断層撮影)、PETとCTを同時に行うPET―CTもありますが、誰でも受けられますか。
古賀
PETもPET―CTも、全身のがんの有無を調べられ、どなたでも受けられますが特にPET―CTは検査費が高価です。若い人は確率的に罹患しにくいので、50歳代あるいは60歳代以上から行うのが適切でしょう。ただし若年層でも、がんの家系なら行う価値はあります。
千原
肺がんの場合、すでに罹患している患者さんの病状を見るためにPETを使いますが、逆にこの検査を行っても、必ずしも肺がんが見つかるわけではありません。
大野
大腸がんはPETと相性が良いのですが、胃がんは相性が悪く、診断精度が低いです。PETは夢の検査ではなく、臓器で使い分けることが大事です。

予防に役立つ発症の研究も進む

長谷川
がん発症の研究も進んでいますね。
大野
「食道がん」はお酒を飲んで顔が赤くなる方が要注意です。アルコールを分解するアルデヒド脱水素酵素の働きが弱いため、習慣的な飲酒で食道がんのリスクが数十倍高まります。この酵素は人間ドックなどで調べることが可能です。「胃がん」はピロリ菌がリスクを高めます。「大腸がん」は、過去にポリープがたくさんできたり、大きなポリープを切除したりした方は要注意ということが分かりました。
千原
肺がんのリスクの筆頭は喫煙です。男性なら4.4倍、女性も2.8倍高まります。他人の煙を吸う受動喫煙でも1.4倍に上昇します。たばこを規制すれば危険度はぐんと減ります。最近流行の電子たばこも、煙は出ないものの有害物質の入った蒸気は出ています。日本呼吸器学会でも勧めていません。ほか、アスベストや有害化学物質などの環境因子や遺伝性もリスクにつながります。
食道・胃・大腸がんの代表的な危険因子 肺がんの代表的な危険因子は喫煙
長谷川
遺伝性のがんについておたずねします。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、がん家系である自身の予防のために、まだ悪くない両乳腺を切除したニュースが数年前にありました。
古賀
女性の乳がんで、遺伝的に高確率で罹患するタイプがあります。これは統計学的に分かっています。未来に対して不安にかられるなら、先手で予防切除するという考えは、必ずしも否定しません。ただ、まだ罹患していない時点で乳房を切除するのが本当に良いかどうかは、もっと議論を重ねないといけないと思います。
大野
遺伝子の情報を扱うのは結婚や子孫に関して非常にデリケートな問題も含んでいるので、慎重さが求められます。
長谷川
これだけ検診機器が進化しても、見つかりにくいがんはあるのですか。
大野
見つかりにくいがんの一つにすい臓がんがあります。プロ野球監督の故星野仙一さんや、大相撲の故千代の富士さんも罹患しました。すい臓は胃の裏にあり、超音波検査でも見にくい臓器です。被ばくの影響も考慮し、頻繁にCTを撮るわけにもいかないですし、周りに神経がたくさんあるので、症状が出た時には進行しているケースが多いのです。
逆に言うと、胃や大腸がんは5年生存率が高く、さらに内視鏡で発見しやすい疾患です。このように、検査で発見しやすいがんで命を落とすのは、非常に残念です。がんの早期発見を目指して、ぜひ毎年検診を受けてください。

受診しやすさ向上へ 情報発信や機会を拡充

長谷川
自治体でも、検診の呼びかけに工夫されているそうですね。
森島
静岡市はがん検診の向上に向けて、子宮頸がんと乳がんの無料クーポン券を、該当年齢の女性に配布しています。さらに毎年4月には「健診まるわかりガイド」という冊子を皆さんのお宅にお届けしています。年齢別がん検診の早見表や医療機関が掲載され、受診に役立ちます。
また、静岡伊勢丹と「健康長寿のまち」推進の連携協定を結び、昨年6月から毎月19日には同店7階の「ウエルネスパーク静岡」で、健康イベントを行っています。骨密度測定や乳がんの視触診モデルによる自己検診啓発など、がん検診をはじめとした健康情報を積極的に発信しています。
長谷川
デパートの中にこういう施設を設けるのは、先進的な取り組みですね。気軽に足を運べます。ほか、働く女性や子育て中の女性にも、検診向上の取り組みをしているそうですね。
森島
働く女性が増えている昨今、平日に休みが取れない方も少なくありません。そこで日曜日の集団検診を、静岡庁舎の前の葵スクエアや商業店舗の駐車場で、協会けんぽの協力のもと、年に数回行っています。さらに子育て中の母親対象の、無料託児つき子宮がん・乳がん検診も実施しています。このように、育児中の女性、働く女性の受診機会を設けることで、切れ目のない形でがん検診を受けられる取り組みを、静岡市は今後も進めていきます。
長谷川
患者さんの負担も年々軽くなり、検診の精度も上がっています。自治体でも受診しやすい取り組みが進んでいます。もっと私たちも積極的に活用すべきですね。
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