第3回健康長寿への道

中年層になると、四十肩、五十肩など体の不調が出てきます。また、年を取ると、転倒が多くなり、寝たきりになってしまうこともあります。介護を必要とする期間は、男性は約9年、女性は約13年と言われています。先生方が中高年齢層が健康に過ごし、健康寿命を延ばすための方法をアドバイスします。

血管のさびを防ごう

肩の運動不足で四十肩や五十肩に

長谷川
年を取ると痛みが生じる理由を教えてください。
遠山
人間ドックに来る人で最近多いと思うのは、首の上の頭の後ろあたりが痛いという人です。これは大後頭神経痛といって、原因は姿勢の悪さにあります。会社でパソコンを使うなど長時間同じ姿勢でいる人に多くみられ、背中が曲がることで神経が圧迫され、傷ついて痛みが出ているのです。
長谷川
生活習慣が関係しているのですね。パソコンやスマートフォンがない時代を生きてきた人でも四十肩や五十肩に悩むのはなぜでしょうか。
芳村
肩は全方向に動かせるにもかかわらず、私たちは上や後ろには使っていません。前に使う動作ばかりしています。この使わない時間が積み重なって、四十肩や五十肩と呼ばれる痛みとなって表れるのです。
長﨑
年をとると末梢しか使わなくなるのだと感じます。通常は腰を使って大股で歩きますが、お年寄りは足先だけで歩いていますね。姿勢も悪く、どんどん前かがみになっていきます。結果、背中の後ろ側の筋肉が引き伸ばされ前の筋肉を主に使うようになり、体の状態が非常にアンバランスになってしまいます。体の中心部である体幹の筋肉を使わず、その筋肉が退化し、どんどん硬くなってしまうことが四十肩などの原因の一つだと思います。
長谷川
痛みがある場合、取り除く方法はあるのでしょうか。
芳村
全方向に動かすようなストレッチを意識的に毎日行っていれば老化の進行を防ぐことができ、痛みも生じにくくなるでしょう。私たちは普段の生活で肩を使うというよりは腕を使うことを意識しがちですが、肩は本来、運動連鎖などと言って、上腕骨と肩甲骨が同時に動くものです。体は全てつながっているので、全部を使ってあげようと意識するだけで大きく変わります。
良い姿勢を心掛けることも重要です。仕事でパソコンなどを使う人や高齢の人は、常に前かがみに近い状態でいます。すると、神経や血管の通り道が狭くなり、手がしびれ、結果上肢が動かなくなります。これは胸郭出口症候群といって、私たちはこれも広い意味での四十肩、五十肩だと考えています。
長﨑
高齢の人にはただ歩く指導をしてもなかなか正しく歩けないので、姿勢を良くして、体の前と後ろの筋肉のバランスを取りながら歩くよう指導しています。
長谷川
ぎっくり腰も体を動かさないことが原因ですか。
芳村
若い人の場合、悪い姿勢から急に体勢を変え、筋肉が瞬時に動くことが原因です。しかし、高齢者の場合、座った状態から立つだけでもぎっくり腰になることがあります。実は腰椎というのは回旋しない関節で、実際に回っているのは骨盤が中心です。座りっぱなしの仕事をしている人の多くが、ももの周りの筋肉が縮み、骨盤がカチコチに固まっています。そうなると、骨盤が回らず腰をひねってしまい、ぎっくり腰になってしまいます。
佐橋
日本人の80%以上もの人が腰痛を訴えているというデータがあります。また、中年以降の世代だけを見ると、抱えている体の不調の第1位は男性が腰痛、女性の第2位が肩こりです。日本人がかかっている病気が10あるとしたらそのうち半分以上は内臓ではなく筋肉や骨に関係しているので、姿勢を維持すること、運動をすることが非常に大事です。

息が切れない運動を

長谷川
こまめに動くことは体の不調を避けるだけでなく、老化進行の抑制にもなるようですね。
長﨑
老化の主な原因に「酸化(さびる)」があります。体内で酸素をうまく利用できないと、活性酸素が発生し、血管をさびつかせます。すると、動脈硬化が進行し血管が細くなって血流が悪くなり、病気や老化につながってしまうのです。日ごろから息の切れない運動を長めに行うことで、酸素を上手に利用できる体づくりができます。特に、酸素利用が上手なのは赤筋という筋肉なので、赤筋が鍛えられるような息が切れない程度の運動を長めに行うことが重要となります。

30?40歳代の運動と栄養

長谷川
食事と運動のバランスが大切なのですね。しかし、過剰な運動はリスクもあると思うのですが。
佐橋
確かにやり過ぎは禁物です。しかし、適度な運動をすることで筋肉・骨を強くして、転倒など不慮の事故を防ぐことが優先です。高齢者、特に女性は骨粗しょう症といって年齢とともにどうしても骨が弱くなります。閉経後など女性ホルモンが減ってくる年齢になると、その傾向は顕著です。ですから、骨が最も多い10代後半~20代の状態を維持することが大切になってきます。屋外での運動とカルシウムは欠かせません。カルシウムを取るには、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品が効果的です。
遠山
日本には100歳を超える年齢の人が6万人以上いますが、約5万人がほとんど寝たきりです。それでは意味がありません。細胞が弱ってくるといわれる30~40代のうちに運動をして、きちんと栄養を取る。それができれば、幸せな人生を送ることができると思います。

片足立ちトレーニングで転びにくく

長谷川
先ほど転倒の話がありましたが、転ばないために、少しでも健康寿命を延ばすために私たちが簡単にできる運動・トレーニングとはどんなものがあるのでしょう。
芳村
片足立ちトレーニングがおすすめです。良い姿勢を保つ、歩くという上で役立ちます。背中がまっすぐ伸びていれば立ちやすいですし、基本歩くという動作は一瞬片足になります。つまり、歩くということは片足で立てるかどうかということでもあります。最初は壁などに手を添えて、支えがある状態で1分から始めてください。慣れてきたら手を外して、時間も少しずつ増やしてみるのがいいでしょう。片足1分を1回として、左右交代して2セットやるのがおすすめです。片足できれいに立つことができれば、美しい姿勢を手に入れられるだけでなく、転びにくくなります。
長谷川
健康長寿のためのアドバイスをお願いします。
遠山
私はゴルフが好きで、体を動かした後にゴルフ場の風呂場から見る富士山を楽しみにしています。運動後は体の痛みを感じることもありますが、体を動かしたという実感があるからこそ、富士山を見ながらの風呂は最高です。40歳を過ぎたら体を動かさないと筋肉は落ちる一方ですから、もう少し元気でいたいなという気持ちで、運動を楽しむ気持ちが大切だと思います。また、今の時代、女性はやせ、男性は肥満で、共に力がなく、とても心配です。
バランス能力をつける片脚立ち
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