第3回生活習慣の改善で予防

日本人に増えている「生活習慣病」の原因の一つ、「動脈硬化」。自覚症状がないまま進行すると、心臓や脳の病気を引き起こします。がんに次いで、日本人の死因の上位を占める心疾患や脳血管疾患を予防するために、動脈硬化にならないよう専門家にポイントを聞きました。
最終回の第3回は「生活習慣の改善で予防」です。

データの「見える化」で意識付け

不規則な食生活見直す

遠山
気付かないうちに、脳血管系の疾患や心疾患など重大な病気につながる「動脈硬化」ですが、生活習慣を変えることで予防できることが、重要なポイントだと思います。実際に、動脈硬化になる人の生活習慣上の問題は何ですか。
小野寺
「心筋梗塞」になる40、50代の若い男性をみると、共通するのは喫煙と、独身か単身赴任者が多いですね。食生活など不規則な生活が影響していると思います。あとは、昔から、非常に真面目な人もストレスを抱えやすく原因になるといわれますが、ストレスは消せないものなので、せめて、生活のリズムを整えることが重要だと思います。
遠山
ではまず、食習慣について聞きます。「高血圧」の原因となる塩分は、静岡県民の摂取量はいかがですか。
土屋
静岡県は全国的にも多いです。県民の塩分摂取量の平均値は、男性11・4グラム、女性9・9グラムで、全国平均より多いです。目標値は男性8グラム未満、女性7グラム未満です。ラーメン1杯をスープまで飲み干すと約7・1グラムになります。
遠山
なるほど。食習慣については、子どものときから身につけることが大事ですが、現状はいかがですか。
向井
今の若いお母さんたちは、学校時代に食育を受けていない世代のため、今は学校がその世代の子どもたちを指導していますね。
土屋
食育基本法が平成17年に制定され、「食育」という言葉が浸透し、さまざまな場で食育の取り組みが進められています。特に幼いころからの取り組みが重要だと考えています。
遠山
幼いころからが大事なんですね。
土屋
若い世代には、食への関心の低さや朝食の欠食、栄養の偏り、孤食などが見受けられ、毎日の食生活をもう一度見直してほしいと思います。
減塩も大切で、静岡県は「減塩55プログラム」という事業を展開しています。お塩の取り方チェック票を作り、19項目で自分が塩分を取り過ぎているかが判定できます。データの「見える化」は意識付けになります。今後、公表しますのでぜひ、活用してください。
県内ではほかにも、健康づくり食生活推進協議会のボランティアさんたちが、みそ汁の塩分濃度を隣近所で測る活動を行い、成果を挙げています。
遠山
ボランティアの力は大きいですね。
土屋
そうですね、とても力になっています。

しっかり歩くと認知症予防も

遠山
今の70、80代の女性は過去最高の健康体で、今後こういう世代は出ないだろうといわれています。その最大の理由は、若いころからそうじなど体をよく動かしていたこと。それで筋力もしっかりしている。これは動脈硬化にも関係すると思いますが、運動するメリットを教えてください。
吹田
体を動かす人は長生きする、というデータはあります。体を動かせば体重も減り、LDL(悪玉)コレステロール値も下がります。歩くと、数値は大変良くなりますね。
向井
「糖尿病」も明らかに良くなります。例えば、勤務態勢が変わって通勤の歩行距離が延びた途端、どんどん糖尿病の数値が改善して、薬を減らすということはよくあります。
 最近は、歩行は「がん」や「認知症」の予防にもいいといわれています。認知症の治療で、唯一効果が証明されているのが、運動と睡眠です。LDLコレステロールの高い患者さんが薬を使わずに下げたい場合、「卵を一切食べない、牛乳を飲まない、肉の脂をとらない」人と、「食べ物はそのままで、運動する」人がいると、運動を一生懸命やった人のほうが数値がよく下がります。運動は、動脈硬化予防になりますね。
土屋
運動については、1日8000歩以上をただ歩くより、そのうち20分間、2000歩は早歩きするといいというデータもあります。
向井
私も、「ただ歩いただけで効果は出ない」「ちゃんと筋肉がつくような歩き方をしてください」とよく指導しています。つまり、大またで、速く歩くことです。
遠山
「運動と食事」が予防の両輪とよくいわれますが、食事の指導はいかがですか。
吹田
食事は、カロリーの取り過ぎを抑えることがポイントです。野菜、中でも葉ものや根っこの野菜はカロリーがほとんどないのでおなかが膨らみ、トータルのカロリー数が下がります。一番最初に野菜を食べれば、ダイエットにもなります。食事は「オリーブオイルの使用」と「青魚を食べること」、加えて「糖質制限」を勧めています。結局、どの食事療法でも体重が落ちれば、コレステロールは低下しています。
向井
そうですね。食物繊維はコレステロールを吸着して排せつまで促します。オリーブオイルをたくさん使う地中海料理を食べるとLDLコレステロール値が低いのは、オリーブオイルによるかと思います。  最近は食事の欧米化が進み、肉食が増えた結果、魚食が減り過ぎたことも問題です。私の診療所では栄養士が食事の指導をしますが、一般的に厚労省の指導量よりも魚の摂取が少ないですね。魚を焼くのが面倒だったり、家庭で魚をさばいたりすることも少なくなりましたから。血液をサラサラにしてくれる魚のEPA(エイコサペンタエン酸)を取るには、刺し身が最適なんですよ。
土屋
県としても魚食を多くしたいと思っています。静岡県は漁港が多くあるので、青魚を中心に、もっと食べてほしいです。

1日あと10分長く歩く

遠山
動脈硬化を予防するには、「運動と食事」。運動はウオーキングなどの有酸素運動でしょうね。車には乗らないことですね。
土屋
そうですね、あと1日10分、1000歩多く歩いてほしいです。厚労省も「+10(プラス・テン)」と言って推奨しています。足踏みだけでもいいので、ぜひやってほしいと思います。
小野寺
運動は、自分が運動だと意識して動くと、同じことをしていても使うカロリーが全く違ってくるというデータがあります。ホテルでメードさんがベッドメーキングするときに、「これは運動だと思ってやる」ことにしたら、その人たちだけ体重が減ったという結果があります。運動だと思ってやると、メリハリをつけるからです。そうなると、「家事も運動だ」と思った瞬間に消費カロリーが増えます。意識を持つだけで、大きく効果が変わってきますね。

運動と食事、禁煙が鍵

遠山
ドック受診者をみていると、最近の人はストレスが多く、そのはけ口として飲酒も多く、年々状況が悪化していると感じます。何とかストップをかけて、動脈硬化に関心を持ってもらうにはどうしたらいいでしょうか。
小野寺
「脳梗塞」の4分の1は、心房細動と不整脈が関係するデータが出ていると思いますが、心房細動は、血圧の高い人がなりやすく、酒ばかり飲んでいると脳梗塞になりやすい。ですから、早めに医者が介入して生活を正してあげないといけません。
 同時に、医者だけでなく、本人も、高血圧などの要因があれば、野球で言えばバッターでストライクを一つ取られているような状況にある、と理解してほしいですね。動脈硬化は年齢とともに進行しますが、予防できます。症状が大きくならないうちに、運動と食事、禁煙で体を守ってほしいと思います。
遠山
ありがとうございました。
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