第3回食の常識、非常識

「自然の恵みを大切にして、バランスの取れた食生活を」。健康長寿の秘けつといえば、ほぼこうしたことになろうかと思います。しかし、そこには食にまつわる落とし穴もあるといわれています。知っていそうで意外と知られていない「食の常識、非常識」について、専門家に聞きました。

情報過多の時代 自分に適切かどうか判断を

手軽にできるベジファースト

長谷川
管理栄養士として臨床現場を預かる立場で聞かせてください。食の常識、非常識は存在しますか。
鈴川
先日、糖尿病の患者さんが「トマトジュースにオリーブオイルを大さじ1杯分入れて、飲んでいる人をテレビで見た。高血圧と糖尿病に良いと聞いた」と話し掛けてこられました。つまりこの飲み方は、まだこの患者さんにとっては常識にも非常識にもなっていないということです。しかしそこで私が「いいですね、ぜひ続けてください」と言えば常識に、反対に「やめてください」と言えば、非常識になるのだろうと思います。
トマトの栄養吸収を高めるために健康な人がトマトジュースに油を入れて飲むことは間違っていないと思います。こうした飲み方は、いずれ常識になるのかもしれません。テレビやインターネットで、体に良いといわれる食べ物の情報が日々発信されています。しかしそうした情報を専門家でない人が常識、非常識を判断するのは、とても難しいことです。
ただし、情報が自分に適切かどうか判断することは非常に大切です。良かれと思って始めたことが、治療中の人には思わぬ悪影響を及ぼすこともあります。主治医の先生や管理栄養士に相談してください。
長谷川
最近、「ベジファースト」という言葉をよく聞きます。まずは野菜から食べましょうということです。私の周りにも、実践している人がいます。ベジファーストは食の常識ですか。
森下
文献では効果があるとされています。最初に食物繊維が多く含まれているものを食べるということなので、野菜以外に、キノコ類や海藻類を食べても良いかと思います。その後、糖質を取ってほしいのですが、この間は、15分ほど空いていないと効果が少ないということなので、しっかりかんでゆっくり食べることをお勧めします。
ご飯を後にすることで糖質の急激な吸収を抑えられます。食べる順番を変えるだけで肥満や糖尿病を予防できます。試してみてはいかがでしょう。
ベジファーストのメリットは他にもたくさんあります。食物繊維が胃の中に入ると水分を吸って体積が増し、満腹感を与えてくれるので、食べ過ぎ防止の効果があります。便通を整えたり、コレステロールやナトリウムの排せつも促したりします。
厚生労働省の「健康日本21」によれば、カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミンなどの摂取は循環器疾患やがんの予防に効果的だと考えられています。これらの栄養素を推奨量摂取するには野菜350グラムが必要と推定されています。調理法などを工夫して、たくさん取りましょう。
厚生労働省「健康日本21」で表されている成人1日当たり野菜の摂取目標値

糖質も塩分も購入量多い静岡市民

長谷川
先ほど、静岡市民の特徴として、高血圧や糖尿病の人が多いという指摘がありました。もう少し説明をお願いします。
深澤
総務省統計局の「家計調査」で静岡市民がどんなものを購入し、食べているかが分かります。静岡市は炭水化物の米、じゃがいもが2位。糖分はみかん1位、ようかん4位、プリン6位でした。みかんは特産品なので理解できますが、炭水化物や果物など糖質の支出金額や購入量が多いという特徴があります。血糖値を上げやすい物を食べていると感じます。また、魚はまぐろや他の魚肉練り製品、しらす干し、干しあじが、いずれも1位です。これらの食品には塩分の多いものもあります。塩分の取り過ぎは高血圧の原因となりますので注意しましょう。
静岡市民の食生活事情

生活見直し 数値改善を

長谷川
検査データの数値は、改善しようとすれば可能ですか。
深澤
「少し注意した方がいいですよ」という人に特定保健指導を行っています。27年度にメタボの該当者と、その予備群と言われた人たちに指導をした結果、38.6%の人が腹囲や血圧、血糖値などが改善しました。他の人たちも少しずつ数値が下がったので、生活を見直せば良くなります。
長谷川
食事の仕方、塩分に関するアドバイスをお願いします。
向井
髙血圧の人の食事で最も問題なのは、塩分の取り過ぎです。厚生労働省が定めた1日の目標は男性8グラム、女性7グラム。高血圧の人は6グラムです。診療所の机に6グラムの塩を入れた瓶を置いて、その量がどんなに少ないか、患者さんたちに訴えています。6グラムは小さじ1杯分です。
塩分制限にどのくらいの認識を持っているか確かめるために、刺し身にどうやってしょうゆをつけているか聞きます。少しだけつける人、片面つける人、両面つける人、皿につけておく人。実にさまざまです。味の濃い食事に慣れている人は我慢すれば味の薄い食事を完食できます。しかし、味の薄い食事を食べている人は、どんなに我慢しても完食できないことがあります。減塩を続ければ、薄味がおいしく感じるようになります。自分の塩分摂取量を知るためにはチェックシートがあります。食品を重ねて食べれば、それだけ塩分を取るということです。
鈴川
栄養指導の時、必ず聞くことがあります。ラーメン、うどんのスープを飲みますかということです。スープは、どんなにおいしくても、残してほしいですね。
あなたの塩分チェックシート

最終目標は毎日を楽しく、はつらつと過ごすこと

長谷川
耳の痛い話ですね。最後に今回の座談会をまとめていただき、合わせて結びのあいさつを頂戴できますか。
佐橋
私たちの最終目標は皆さまに毎日を楽しく、はつらつと過ごしていただくことです。そのために必要なことを三つに絞りました。一つは適正体重を維持する。二つ目は運動習慣を身に付ける。三つ目は禁煙。この三つを実行し、年1回検診を受けて、今の生活習慣で良いのか判断していただきたいということです。
pagetop