第2回「カロリー神話」を考える

「カロリー神話」という言葉を聞いたことがあるかと思います。数年前、話題になったので、ご記憶のある人がいるかもしれません。分かりやすく言えば、「カロリーが同じならば、何を食べても太りやすさ、痩せやすさは同じ」ということかと思います。食習慣や健康を保つ食事などについて、専門家に尋ねました。

食べる時刻、順番、速さも大切に

多少のカロリー差 一喜一憂しない

長谷川
肥満、痩せ過ぎ、若い女性の無理なダイエットとともに、今、問題になっているのが高齢者の低栄養と聞きます。食との関係で日頃どんなことを感じていますか。
向井
加齢で筋肉量が減り、全身の筋力や身体機能が低下するのがサルコペニア、身体機能と認知機能が衰え、虚弱になることをフレイルと言います。食事量の低下や慢性的な低栄養が引き起こす症状で、転倒骨折や寝たきりになる危険性があります。
長谷川
どんな自覚症状がありますか。
向井
サルコペニアは握力低下や歩く速度が1秒間に0.8メートル以下などです。フレイルはそれに加え、疲労感や、体重が急に落ちたなどがあり、悪循環でどんどん悪化します。予防は食べることです。高齢の患者さんが増えています。最初に聞くことは「食べていますか」です。栄養状態をまずチェックします。
長谷川
私たちの世代では、食べて動く-が理想ですが、運動が面倒という人は太らないために、食事を少し抑えればと考えがちです。しかし、そこで気になるのがカロリーですね。
森下
カロリーはエネルギーの単位です。エネルギーは人間が体を動かすために必要な活動の源です。栄養成分表示を見るとエネルギー量などが書かれています。日頃少し感じていることは、同じ食品でも旬のものと時期外れのものではエネルギーも変わってきます。従って、目安として活用し、多少のカロリーの差で一喜一憂する必要はないと考えています。
時間栄養学の進歩で、食べる時刻と食べる順番、食べる速さが私たちに大きな影響を与えることが分かってきました。摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスと合わせて考える必要があると思います。
長谷川
食べる時刻など興味深いですね。アドバイスとしてもう少し、聞かせてください。
森下
例えば、朝食、昼食、夕食はそれぞれ6時間くらい空けるのが1日3食の理想です。食間があまり長いと絶食状態が長くなり、次に食べたものが脂肪として蓄えられることが多くなるといわれています。
栄養成分表示の見方

エネルギーの中身にも注目を

長谷川
食事する時、カロリーを気にする人を「カロリー信者」と呼ぶそうですが、アドバイスをお願いします。
鈴川
食品を買う時、カロリー表示を見る人は多くても、それ以外は見ないという人が多いようです。例えば、クッキー1枚の栄養成分表示に、タンパク質、脂質、炭水化物などとありますが、この中で一番多いのは炭水化物です。その次が脂質です。つまり、クッキー1枚25キロカロリーのほとんどは炭水化物と脂質という意味です。
お菓子をご飯代わりにすることはありませんか。同じカロリーなら、お菓子の方がいいと思う人はいませんか。栄養指導で時々聞くのは「孫が食べるから」「夫が食べるから」と言って、自分も食べている人がいることです。お菓子などの間食が原因で糖尿病や脂質異常症が悪化して、栄養指導を受ける人が多いので、カロリーだけでなく、エネルギーの中身にも目を向けてほしいですね。
平成26年度 特定検診受信者の腹囲・BMIの状況(静岡)

食べたら体動かし、肥満予防を

長谷川
静岡市の男性は40代に肥満が多いという調査結果があると聞きます。どんな理由が考えられますか。
深澤
特定健診結果(26年度)の腹囲とBMI(肥満度を示す体格指数)によれば、40代の男性は約4割が腹囲85センチメートル以上の内臓脂肪肥満です。60代でも47%と改善されていません。
食べ過ぎと運動不足が原因の一つと考えられます。炭水化物や果物、お菓子などの糖質を取り過ぎると血管内が高血糖状態となり、余分な糖が消費できなくなり、中性脂肪に変わって脂肪細胞に蓄えられます。運動をしないと糖がエネルギーとして使われないため、脂肪細胞に蓄えられたままです。
内臓脂肪が蓄積すると、血管の炎症や血栓をつくりやすい状態にするほか、インスリンの働きを悪くして血糖値を高くします。食べ過ぎに注意して体を動かし、内臓肥満を予防しましょう。

魚食をもっと増やそう

長谷川
生活習慣病の予防に必要な食べ方について、アドバイスをお願いします。
向井
最も言いたいことは魚食を増やそうということです。日本人は世界でも有数の魚食民族です。最近、それがなぜ減ったかというと、おいしい魚屋さんが減った、魚の料理が面倒くさい、肉料理は簡単など、さまざまな理由を聞きます。
魚食が健康に良いという証拠はたくさんあります。イヌイット(エスキモー)が虚血性心疾患が少ないことを昭和47年と53年にデンマークの疫学者が発表しました。血液をサラサラにする効果があるといわれるEPA (エイコサペンタエン酸)が含まれているアザラシを食べていたからです。日本人の食事が良かったという時代は、魚をたくさん食べていたということを知ってください。
長谷川
食の乱れは病気につながる-と聞きます。食の改善について、お聞かせ願います。
佐橋
現在の日本人の死亡原因の第1位はがんです。近い将来、2人に1人はがんにかかると言われています。がんの中では胃や腸などの消化器がんがすべてのがんの半分程度を占めます。
また、たばこや食事ががんの発生と関連が深いことも知られています。がんを防ぐためにも、食事の習慣や内容に十分、注意する必要があると思います。
生活習慣チェックリスト
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