第2回運動を続けるこつ

運動が必要だということが分かっても、なかなか始められない人、続けられない人が多くいます。先生方に、運動を始める、続けるためのこつを中心にうかがいます。

「赤筋」の鍛え方を学ぼう

運動を始めて1週間を乗り切る

長谷川
頭では必要だと分かっていてもなかなか続けられないのが運動です。長く続けるこつを教えてください。
佐橋
まずは運動の効果を信じることです。結果や頑張りが一目で分かるように、体重の変化や歩いた距離・歩数、時間などの記録をつけることが効果的です。効果が上がるまでには時間が必要で、停滞期があるということを理解しましょう。友人と一緒に運動するのも長続きにつながります。
長﨑
大事なのは、歩くことは体の機能を活性化させて、「血圧が下がりやすくなる」「糖尿病の症状を改善してくれる」などのように「自分にとって歩くこと自体に意味があるのだ」と捉えること。そうすれば、自覚が出てモチベーションにつながります。
長谷川
運動の効果を感じてやる気につながるような結果が得られるまでには、一般的にどれくらいの時間が必要ですか。
長﨑
歩く習慣が全くない人の場合、歩き始めの1週間ほどは苦痛を感じますが、その後は慣れて楽になります。1週間は、我慢して乗り越えましょう。最初は家を出て5分歩き、5分かけてまた家まで戻ることをしてはどうでしょうか。すぐに負荷を上げたくなりますが、その後も長く続けるためには、急には量を増やさない、負荷を強くしないことが大切です。1週間後には「もっとやりたい」という意欲に変わり、次へのステップへとスムーズに進めるでしょう。
芳村
運動後に筋肉痛になると自分は運動ができない体だと思い込み、運動をやめてしまう人がいます。しかしそれは誤解で、私は患者さんに「筋肉痛が出るくらいトレーニングをするなんて、素晴らしいですね」と話しています。運動をすると筋肉痛が出ますが、休養して痛みが取れた頃、もっとよい筋肉がついています。
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ウオーキングに適したペース

長谷川
私たちはどんな筋肉をどのように育てていけばいいのでしょうか。
長﨑
筋肉には持久力がある「赤筋」と、とっさの動きに使う強い筋肉「白筋」の2種類があります。赤筋は、歩くなど普段の生活で必要な「日常用の筋肉」である一方、白筋は重いものを持ったり速く走ったりする時に使う「非常用」です。私たちは赤筋を育てる必要があります。それには、息が切れない程度のウオーキング、ジョギングが効果的です。また、赤筋は酸素の使い方が上手で脂肪を燃焼する筋肉です。高血圧症や糖尿病など生活習慣病の方は、運動不足で赤筋が鍛えられておらず、体動時に脂肪がうまく使えない状態です。
長谷川
息が切れるほど速く歩くなど、過剰な運動は逆効果なのですね。
長﨑
「速く歩ける人は健康な人が多い」ことは事実ですが、「速く歩けば健康になれる」とは言えません。速く歩ける人は元々、持久力のある赤筋が発達しています。そしてこういう人は寿命が長く、健康な人たちが多いのです。しかし、赤筋が十分に備わっていない人が速く歩くと、息が切れて疲れてしまい、日常生活ではあまり使わない白筋ばかりが育つことになってしまいます。結果的には動脈硬化が進み、精神面でもつらい状態になりやすいとも言われます。
筋肉のイメージ

夕食前に運動を

長谷川
筋肉を鍛える上で、運動はいつ行うと効果的ですか。
芳村
運動後2日間は筋肉はつきやすくなっているのでいつ運動しても良いですが、しっかり食べることが多い夕食前の運動が、効果的です。 筋肉は質の良いタンパク質を取るだけでも増えます。特に、朝は空腹状態ですのでタンパク質を取ると、筋肉もつきやすくなるので朝ご飯はとても重要です。
佐橋
運動は午前中は控えた方が良いと言われています。朝起きてすぐのランニングなどは自律神経が十分に働いていないため、大きな刺激を与えると予想もしない事故が起こることがあるからです。今、小学校では午前中に体育の授業を行うことは少ないようですね。健康という観点から見ると、昼間や夕方の運動が安全です。
長﨑
著しい食後高血糖の糖尿病の人などを除いては、食後すぐの運動はよくありません。運動選手の場合、大抵試合の2時間前には食事を済ませているのが通常です。食後、体は消化の機能が主となっており、副交感神経が優位で、交感神経が優位の運動は、食後すぐには不適当です。
長谷川
食事と運動のバランスはどのように考えればよいのでしょうか。
長﨑
ダイエットというと、運動というよりも食事制限から始める人が多いと思います。最近では炭水化物を控える傾向が見られますが、極端な糖質制限は良くありません。体内の糖の貯蓄庫は脂肪の貯蓄庫に比べてとても少ない上、脳は100%糖を使って働いています。過度な糖質制限は脂肪分の過剰摂取につながり、結果的に動脈硬化が進み、また低血糖になって意識がなくなることもあります。最低でも1日約150グラムの炭水化物を取るようにしてください。炭水化物150グラムというのは600キロカロリーで、これは人間の基礎代謝の半分に相当するカロリーです。ダイエット効果以上にリスクが大きいのが過剰な糖質制限です。
芳村
まずは地道に運動を続けて筋肉を育て基礎代謝を上げ、やせやすい体を作るということが正攻法だと思います。

良質なタンパク質を取る

長谷川
体づくりのためには、どのようなものを食べたらよいのでしょうか。
佐橋
高齢者にとっても食事は重要です。年齢が進むと必要なカロリーや消費カロリーは減りますが、意外にも必要なタンパク質の量は増えます。ですから、年をとるほど肉や魚を食べ、良質なタンパク質を多くとるよう心掛けてください。しかし、タンパク質を取るだけでは不十分で、運動することによって筋肉が増強されます。
芳村
肉や卵は良いタンパク質に分類されますが、穀類と豆類を組み合わせることでも良いタンパク質になります。ご飯に納豆をかけるだけで、お互いに足りないタンパク質、アミノ酸を補ってくれます。色の濃い野菜やヨーグルトを食べるのもいいですね。
長谷川
では遠山先生、運動を続けるこつをお願いします。
遠山
とにかく自分が楽しいなと思うことを続けることです。人間、体の動きよりもまずは気持ちが先に来るので、少しでも気分が乗らなくなってしまったらそこで終わってしまいます。私はウオーキングを続けていますが、昔ほど道中でいろいろな人に会わなくなってしまいました。それほど私たちは歩く機会、運動する機会が減っていると言えるでしょう。歩くことは簡単ですし、今すぐにでも始められる運動なので、皆さんにはぜひ意識して歩いてほしいと思います。
集合写真
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