第2回発見と治療のキモ

日本人に増えている「生活習慣病」の一番の原因は、「動脈硬化」です。自覚症状がないまま進行すると、心臓や脳の病気を引き起こします。がんに次いで、日本人の死因の上位を占める心疾患や脳血管疾患を予防するための、動脈硬化対策の最前線を専門家が紹介します。
第2回は「発見と治療のキモ」です。

悪玉コレステロールの数値知る

特定健診や人間ドック活用

遠山
放っておくと、気付かないうちに血管が狭くなり、心臓や脳の疾患につながる「動脈硬化」。原因は、たばこや「メタボリックシンドローム」の高血圧、肥満、高血糖、高脂血症が大きいことは分かりました。では、動脈硬化を早く発見するにはどうしたらいいでしょうか。
吹田
特定健診や人間ドックの受診ですね。LDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロールの値を知ることがもっとも重要です。次は、両親や祖父母のかかった病気と発症年齢を調べてください。親や祖先のことを大事にすることが自分の病気の発見につながります。「心筋梗塞」や「脳卒中」の人が一人でもいたら、検査を受けることをお勧めします。
遠山
どんな検査が行われますか。
吹田
私は動脈硬化が疑われる患者さんに、「頸(けい)動脈エコー検査」を行います。首の両横を上がっていく総頸動脈を観察します。皮膚に近くて、太さも1センチで観察しやすい動脈です。この血管の中膜にコレステロールがたまってプラークを形成していたら、動脈硬化あり、と判定します。人間ドックや外来で簡単にできる検査ですから積極的に受けることをお勧めします。
遠山
気になる人はぜひ、受けておきたいですね。動脈硬化で病気が発見されるとどんな治療が行われますか。
小野寺
「狭心症」の場合、治療は「薬」「カテーテル治療」「バイパス手術」です。薬はリスクファクターをコントロールする薬か、動脈が血栓でつまらないようにする「血液サラサラ」の薬、または狭心症の症状を起こしにくくする薬が使われます。
カテーテル治療は、狭くなった動脈を風船のついた細い管(カテーテル)で押し広げて、ステント(チューブ状の金網)を内側に置いてくるものです。
バイパス手術は狭い動脈をバイパスするようにほかの血管を心臓に植え込む手術です。混み合った国道にバイパスを作るようにほかに血が通る血管をつなぎます。

高血圧対策は薬や塩分制限

遠山
薬の効果をもう少し詳しく教えてください。
小野寺
コレステロールを下げる薬を使えばプラークが小さくなるというデータはあります。同様の効果は、魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)にもあります。
間もなく出るコレステロールを下げる新薬は注射薬で、LDLコレステロールを30まで下げますが、これは動脈硬化が進行する人向けです。これなら確かにプラークがほとんど消える可能性はありますが、自己負担で年間30万円ぐらいかかります。
遠山
「高血圧」の場合は、数値がどのぐらいから薬を飲むといいですか。
向井
そうですね。高血圧の診断基準は140なので、140台が出たら、塩分を控えて、運動を増やして、血圧を測ります。140が続いたら薬を飲み、受診するように指導します。
あとは「リスクの層別化」です。血圧以外のリスクをみていきますので、軽症や中等度の方は、食事指導を徹底していきます。
吹田
私は、まず三つの検査で内服を考えます。心電図を測定して心肥大があるか、検尿でタンパク尿があるか、眼底カメラで動脈硬化のサインがあるかを調べて、いずれかだったらすぐ内服します。サインがない場合は、親や祖父母に「脳卒中のいる高血圧の家系」「脳卒中のいない高血圧の家系」「脳卒中も高血圧もない家系」に分けて、治療プランを立てます。
遠山
高血圧の場合、薬以外に、運動や食事のアドバイスをしますか。
小野寺
そうですね。少し汗をかくような運動をするよう指導します。汗をかいて塩分が出て行くことと、血管が広がりやすくなることで血圧が下がります。狭心症がもしあれば、運動で狭心症症状が出て気が付くこともできます。
向井
私は、診療所に専属の栄養士を置き、栄養士を通じて徹底して塩分制限を指導させます。1日6グラムは、プロの栄養士が工夫して初めて達成できる量で、個人で取り組むのはなかなか大変です。個人でやると、本人の思い込みもあって難しい。そこをうまく指導しないと、次の治療もうまくいきません。

「自分のカルテ」作って管理

遠山
動脈硬化の原因の、高血圧、肥満、高血糖、高脂血症の「メタボリックシンドローム」は、どうしたら防げますか。
小野寺
繰り返しになりますが、高血圧なら、まず血圧を下げる。毎朝自宅で血圧を測り、医師と相談しながら薬や減塩食で血圧のコントロールをしていきます。
次に「運動と食事」で肥満と高血糖のコントロールをします。1日8000~9000歩を目標に歩き、食事は、カロリーの少ない野菜をたっぷり取っておなかを膨らませて総カロリーを減らすことなどです。
遠山
「運動と食事」が肝心なんですね。
ほかにも、動脈硬化を発見する手段はありませんか。
小野寺
それには、自分で自分のデータをとることです。私は「体重計に乗りなさい、血圧を測りなさい、万歩計をつけなさい」と指導し、三つのデータを数値化して、「自分のカルテを作ろう」と言っています。「測って健康!」ですね。

「かかりつけ医」を持つ

土屋
そしてやはり、「かかりつけ医」をしっかり持つことがまず大事だと思います。
遠山
静岡県は「かかりつけ医」と「病院」の連携がうまくいき、行政もそこに加わって、多くの人が救われていますね。
小野寺
静岡市については「脳梗塞」に関してネットワークができあがり、急性期病院に運び込まれれば、治療対応は万全です。急性期病院を退院すればリハビリ病院へ行き、その後はかかりつけ医に戻る。救急隊とも連携でき、手術ができる病院にすぐ転送します。問題は、患者さんが発症後、いかに早く病院に行けるかどうかです。
遠山
ところで、一度動脈硬化になると、元へは戻らないんですか。
向井
頸動脈エコーで見たプラークについては、スタチンというコレステロールの薬を飲むことで、ある程度は改善可能です。ソフトなプラークは退縮するように見えますね。
小野寺
動脈硬化は進行する病気で、年を取れば取るほど起こりやすくなります。治療したほかの場所に動脈硬化が進行しないためには、予防が必要です。1回動脈硬化を起こした人は動脈硬化を起こしやすい体質があるので、薬はもちろん大切ですが、禁煙、運動、食事にしっかり取り組んで、動脈硬化を進めないようにすることが重要でしょう。
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