第1回動脈硬化はなぜ怖い?

日本人に増えている「生活習慣病」の一番の原因は、「動脈硬化」です。自覚症状がないまま進行すると、心臓や脳の病気を引き起こします。がんに次いで、日本人の死因の上位を占める心疾患や脳血管疾患を予防するためにも、動脈硬化をいかに予防するか、3回にわたり専門家が最新の医療情報を紹介します。
第1回は「動脈硬化はなぜ怖い?」です。

生活習慣病の原因は動脈硬化

脳や心臓の病気の引き金

遠山
最近、盛んに言われる「生活習慣病」は、遺伝病と違って、早期発見・早期治療によって予防できる病気です。「動脈硬化」はその原因の一つで、ほとんどの病気の原因になります。どのような病気なんでしょうか。
小野寺
「動脈硬化」は、血管の壁の中にLDL(悪玉)コレステロールがたまって狭くなることです。そこが理解されていなくて、若手医師の初期研修医でも「動脈が硬くなること」と単純に答える人が多いのです。
動脈硬化で大きな問題となるのは心臓と脳です。心臓では血管が狭くなることが問題で、脳では動脈が狭くなる「脳梗塞」と、動脈が硬くもろくなって破れる「脳出血」「くも膜下出血」があります。
心臓には、心臓の筋肉に血を送る冠動脈が心臓を巻いていて、冠動脈の直径3ミリくらいのゴムチューブのような血管の壁の中に、LDLコレステロールがたまって壁がぶ厚くなり、中が狭くなるのが、心臓の動脈硬化です。
血管がどんどん狭くなると、血液が心臓の筋肉に十分流れなくなり、胸が痛くなる、これが「狭心症」です。動脈硬化が進行すると、冠動脈に血栓ができて完全に詰まってしまい、冠動脈の先の心臓の筋肉に血がいかなくなるのが「心筋梗塞」です。
動脈硬化で脳の血管が狭くなると、「脳梗塞」の原因に、また脳の動脈が破れる「脳出血」「くも膜下出血」にもつながります。さらに「認知症」にもつながりますので、まずは動脈硬化の予防が何よりも重要になります。

たばこが大きな原因

遠山
動脈硬化の原因は何でしょうか。
小野寺
動脈硬化は年齢とともに起こりますが、起こりやすくする原因があります。動脈の壁の内側に小さい傷をつくるきっかけが、たばこ、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症です。これらは動脈硬化のリスクファクターです。
たばこを吸ってニコチン、タール、一酸化炭素が体に入ると、いずれも動脈硬化を起こします。喫煙により動脈硬化になる可能性は3倍になり、吸う人のそばにいるだけでも危険度は上がります。
また、高血圧、肥満、高血糖、高脂血症は太っている人に重なって起こり、これを「メタボリックシンドローム」といいます。この四つが重なると、動脈硬化になる確率は30倍にもなりますが、一つ一つコントロールすることで予防ができます。
遠山
動脈硬化の誘因に、たばこは大きいのですね。
吹田
たばこは絶対に動脈硬化を起こします。「心筋梗塞」になる人は、大体今70歳ぐらいの人が多いのですが、時々40歳ぐらいの人がいて、そういう人はほとんどたばこを吸っている。糖尿病と喫煙は非常に強い因子です。たばこを吸っている人は早く動脈硬化になり、「心筋梗塞」を起こしたり、血管が裂けたりするのがはっきりしています。喫煙は非常に危険な生活習慣ということになります。
小野寺
子どもにとっても、家庭では副流煙の問題があり、子どものときからたばこにさらされることは危険です。お母さんが吸うと、女の人は特にニコチン依存症になりやすく、子どもやおなかの赤ちゃんの健康への影響も大きいのです。また、子どもが将来たばこを吸うようになる危険も増えます。このため、禁煙が大切だと思います。

静岡県に多い脳梗塞

遠山
さて、動脈硬化に自覚症状はありますか。
吹田
動脈硬化は、病気というより病態と言ったほうが適切で、病気によりそれぞれ症状も違います。代表的な病気は、「狭心症」と「心筋梗塞」です。
「狭心症」の症状は、胸の中央が手のひらサイズで3分間締めつけられます。焼ける、モヤモヤ、ヒリヒリは狭心症の症状ですが、ズキズキ、チクチクは違います。 「心筋梗塞」は強い痛みで額に冷や汗が出て、1時間以上続きます。冷や汗が出るのがポイントです。
「脳梗塞」はうまくしゃべれない、手足が言うことをきかないという症状で、頭痛を訴えることはほとんどありません。
胸部、腹部の「大動脈解離(かいり)」は動脈の中膜と外膜の間が裂けるのでかなり強い痛みで、痛みが移動するのが特徴です。大動脈瘤はあるだけでは症状はありませんが、破裂すると強い痛みからショック状態になります。
足の動脈の内腔が細くなる「下肢閉塞(へいそく)性動脈硬化症」は数百メートル歩くとふくらはぎが痛くなり、歩けなくなります。休むとまた歩けるのが特徴です。 いずれも、動脈の内側が狭くなる病気なので、動いたことによる臓器の痛み、皮膚なら色が悪くなるという症状が中心で、しびれは違います。脳だけは痛みではなく、まひを中心とした症状になります。実際に診療所を訪れる患者さんは、症状ではなく、健康診断でLDLコレステロールの高値を指摘された人がほとんどですね。
遠山
ところで、静岡県は「脳梗塞」が多いのでしょうか。
土屋
はい。静岡県は、悪性新生物(がん)などの死亡が全国平均より少ない中、「脳血管疾患」の死亡数が多く、その中で、「脳梗塞」「脳出血」ともに多い傾向にあります。地区別では、県東部で脳血管疾患で亡くなる方や、高血圧の方が多いです。
遠山
その理由は。
土屋
まず、食生活では、伊豆地域は塩分、東部地域は脂っこいものを多く取る傾向にあります。国民健康・栄養調査の結果では、県民全体の野菜摂取量が男性286グラム、女性298グラムで、目標の350グラムを下回り、1位の長野県より100グラムも少ない状況でした。
静岡県は気候と自然に恵まれた「食材の王国」ですから、もう少し意識して野菜を取ってほしいと思います。
また、東部地域では公共交通機関が少ないので、歩かずに車の移動が多いことも原因かもしれません。
遠山
日本では戦後、「脳出血」が多かったのですが、今は「脳梗塞」が多いのはなぜでしょう。
向井
一番の原因は、塩分の取り過ぎで血圧が高くなったことだと考えられます。食事の減塩化が進み、血圧管理ができてきて、「脳出血」は大分減ってきましたが、「動脈硬化」はいろいろな因子が絡むため、今は「脳梗塞」の方が増えていますね。

動脈硬化は男性に多い

遠山
よく、病気に男女差があるといわれます。血圧など血管に関係する男女差は大きいですか。
吹田
動脈硬化にははっきり男女差があって、同じ年齢だと女性の方が起こりにくいのです。その理由は完全に分かっていないところもありますが、月経のある間は女性ホルモンが血管を守ってくれるからと考えられています。男性と女性で比べると、動脈硬化で起こる「狭心症」は発症年齢が10歳違い、女性の方が10歳遅く起きるんですね。
遠山
動脈硬化は、いつごろから重視されるようになったんでしょうか。
向井
25年ぐらい前でしょうか。当時は、「コレステロールは下げなくていい」という考え方でしたが、この20年で、LDLコレステロールは「140でいい」が、「120」「100以下」とどんどん変わりました。
小野寺
LDLコレステロールを下げる手段が出て、下げてみたら病気が減ることが分かったので、治療により下げるべきとなったと思います。
遠山
治療するには、動脈硬化を招く生活習慣を取り除くことが大切ですね。
吹田
それには一に禁煙。続いて、運動と食事ですね。
向井
塩分コントロールは難しいので、私の診療所では栄養士が食事指導を行います。「運動と食事」の両輪で治療と予防を進めることが大事です。
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